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熟練技能者の動きをデータ化して3次元空間にコピーする技術がある。ハリウッド映画などで用いられてきた「モーションキャプチャー」だ。動作の一つひとつを数値化して分析すれば効果的なアドバイスが可能になる。

 スマートフォンの画面に「棒人間」が現れ、滑らかなはけさばきを披露する──。日本塗装工業会と名古屋市立大学芸術工学部の横山清子教授が共同で作ったのは、熟練の塗装技能者の動作を完璧にコピーした棒人間のアニメーションだ(図1)。2020年8月からウェブサイトで公開を始めた。

図1■ 熟練者の塗装作業を10台のカメラで記録・解析した
(資料:日本塗装工業会、名古屋市立大学)
(資料:日本塗装工業会、名古屋市立大学)
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(資料:日本塗装工業会、名古屋市立大学)
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動作を解析してアニメーション化した。いずれも右下は解析画像。力が入っている部位は赤く、力を抜いた部位は水色に着色

 アニメーションの作成ではまず、1級塗装技能士の資格を持つ熟練者の体の各部位に、加速度計など約30個のセンサーを装着させる。

 次に、熟練者の周囲に設置した10台のカメラで、はけやローラーを持って塗料を板に塗る作業の様子を撮影。毎秒30コマで記録した映像やセンサーの計測結果を基に、技能者の動きを仮想の3次元空間上に再現した。塗装の軌跡を示し、塗る順番や方向なども可視化する(図2)。

図2■ 熟練者の塗装作業の軌跡を可視化
図2■ 熟練者の塗装作業の軌跡を可視化
モーションキャプチャーで塗装の軌跡を記録し、紫色で示した。白い点が熟練者の体を示す(資料:日本塗装工業会、名古屋市立大学)
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 モーションキャプチャーと呼ぶこの技術は、人の動きをリアルに再現できるため、映画やアニメといったエンターテインメントやスポーツ科学の分野を中心に、2000年代ごろから使われてきた。通常は、カメラなどの機材を配した計測専用の部屋で撮影する必要があるので、屋外作業が中心の建設業で技能継承に利用する事例はほとんどなかった。

 日本塗装工業会がモーションキャプチャーに注目したのは、正確な動作で疲れがたまりにくい「塗り方の正解」を探るためだ。答えが分かれば、新規入職者に効率よく技能のコツを伝えられる。塗装作業の教則本では従来、最初に塗装面の全体にW字を描いて「面を出す」のがよいとされてきたが、その次にどう塗り進めるかまでは言及していなかったという。