土砂災害リスクの高い箇所を可視化して、住民を安全な場所へ誘導させるだけでなく、市街化を抑制する規制をかけて、無居住化を目指す北九州市。将来の住人に災害のリスクを背負わせない新たな施策に注目が集まる。
北九州市八幡東区は、日本の鉄づくりの礎を築いてきた官営八幡製鉄所とともに発展を遂げた都市だ。平地を製鉄所関連の工場や施設が占めたため、働く人たちやその家族は斜面沿いに家を構えざるを得なかった。今も山にびっしりと家が張り付く景観が残る(写真1)。
市はこういった「斜面宅地」などを対象に、新規の開発を抑制し、おおむね30年をめどにゆるやかに無居住化や更地化を進めようとしている。2018年12月から、都市計画区域を市街化区域と市街化を抑制する調整区域に分ける「区域区分」の見直しに着手。市街化区域の一部を調整区域に編入する“逆線引き”を検討してきた。
「危険な場所を市街化区域のままにして住んでいいと言い続けるのは、都市計画を運用する行政として責任のある行動ではない。現世代だけでなく、次世代に対して行政が街をどうしたいかを示す1つの姿ではないか」。市の区域区分の見直しに、専門委員として関わった九州工業大学大学院建設社会工学研究系の寺町賢一准教授は、こう評する。
調整区域への編入に当たっては、災害の危険性や利便性、居住状況など12の指標で総合評価する(図1)。
特に珍しい指標が、災害の危険性だ。土砂災害警戒区域や宅地造成工事規制区域など災害リスクが高い箇所は、市街化区域としての評価点が低くなる。これまで、区域区分に土砂災害の危険性を、定量的な指標として設けた例はなかった。災害の危険性の評価が他の項目と比べて、重みづけが高いのも特徴だ。