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 建設現場で作業員の高齢化が進むなか、新たなリスクが生まれている。身体能力や認知能力の低下で、ささいなことがきっかけで重傷や死亡事故につながるのだ。現場によくある設備が一転して“凶器”となる可能性をはらむ。

 その象徴的な事故が、三重県内にある商業施設の建設現場で発生した。三重労働局津労働基準監督署は、施工していた熊谷組と同社の現場代理人が労働安全衛生法に違反したと認定。2019年12月に津地方検察庁へ書類送検した。

 事故は19年3月、建設現場に設けられた伸縮式の入退場ゲートで起こった(写真1)。70代の作業者が、地上から5cmほどの高さに張ったワイヤにつまずいて転倒。顔などを強打し重傷化した。高齢だったことなどから、とっさに受け身を取るといった対応ができなかったもようだ。

写真1■ 工事現場で一般的な入退場ゲート付近で事故が起こった。写真はイメージ(写真:D850/写真AC)
写真1■ 工事現場で一般的な入退場ゲート付近で事故が起こった。写真はイメージ(写真:D850/写真AC)
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 ワイヤは、入退場ゲートの下部にあるキャスター付近のフックに通して、出入り口の両端同士をつないであった(図1)。強風でゲートが道路側にはらみ出すのを防ぐ、ごく一般的な対策だ。ゲートを開放すると、ワイヤは地面に接するほどたるむので、人や車両の通行を妨げない。

図1■ ゲートが風で道路側にはらみ出さないようにワイヤを張っていた
図1■ ゲートが風で道路側にはらみ出さないようにワイヤを張っていた
ワイヤが地面から5cmほどの高さでたるんでいた所につまづいた。津労働基準監督署の資料を基に日経コンストラクションが作成
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 しかし、ワイヤをフックに通した付近では、ちょうど足を引っ掛けやすい高さにワイヤがある。作業者は、車両が往来する開放部を避けて端部付近を通り、つまずいたとみられる。

 熊谷組は、その後不起訴となった。とはいえ、労働基準監督署が転倒防止措置の不備を理由として建設会社などの書類送検に至るのは異例だ。「事故の結果の重大性を鑑みて判断した」と、津労働基準監督署の田中章太第一方面主任監督官は送検の理由を説明し、次のように続ける。

 「ワイヤにつまずく事故は、全国どこでも起こっているはずだ。ただ、作業者が若いため『ヒヤリ』で済んでいただけだろう。高齢者の視点で、今一度現場を確認してほしい」

 熊谷組は、再発防止として「注意喚起するとともに、ペイントによる段差部の明示や通行禁止といった措置を全社に確認・指導した」とする。