橋の補修工事では、現場の条件や特性を新設時以上に確認して安全対策を講じる必要がある。特に古い橋は要注意だ。珍しい構造が多くあり、死角が生まれやすい。
2020年5月に岐阜県恵那市で起こった墜落事故は、その典型例と言える。1933年度に架設した鶺鴒(せきれい)橋の吊り足場上で、桁を補修するためにいったん取り外そうとしていた落橋防止装置がバランスを崩して落下。足場を突き破り、巻き込まれた2次下請けの作業員3人が約15m下を流れる上村(かんむら)川に墜落してけがをした(写真1、2)。
工事は中島工務店(岐阜県中津川市)が受注。発注者の岐阜県は、同社と1次下受けの村瀬工業(岐阜市)を2週間の指名停止とした。
鶺鴒橋は長さ40m、幅5.1mの3径間の鉄筋コンクリートT桁形式で、県道瑞浪大野瀬線の一部を成す。26年の設計基準を用いて、中央径間の桁(吊り桁)の両端を側径間から延びた桁(突き桁)の端部に載せるゲルバー構造を採用。その後、耐震補強として吊り桁の両端に鋼製の落橋防止装置を取り付けた(写真3)。
この落橋防止装置は、長方形断面の鋼材などをロの字形に組み立てた珍しい構造だ。装置はアンカーボルトで突き桁の下面に固定。上側に飛び出たブラケットで吊り桁の側面をはさみ、変位を制限する。大きさは橋軸方向に3.4m、橋軸直角方向に3.6mで、重さは4tに及ぶ。
装置の重さは吊り足場の耐荷重を超える。そこで、桁を補修するために、装置を1mほど降ろして宙づりにしたまま桁下面を補修する計画を立てた(図1)。複数のチェーンブロックを同時に下げて、水平を保ちながら降下させるのだ(図2)。チェーンブロックのフックは、桁の側面や床版の下面に打ち込んだリング状の吊り金具に引っかけた。