インフラの早期補修が求められる中、予算が限られる自治体は維持管理に知恵を絞る。役所の仕事の領域を広げるか、民間企業の力をより生かすか、住民に参加してもらうか――。従来とは異なる守備範囲でインフラの点検、診断、設計、施工を進める動きが見られる。老朽化するインフラを守るのは誰か。多様化する担い手を追った。

誰がインフラを守るのか
目次
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年間1人3万円では足りない時代に
インフラの維持補修費はこれからますます膨れ上がる。従来通りに事業を進めるだけでは、予防保全への移行は難しい。地域に合った維持管理の「担い手」と「担い方」を今こそ模索しなければならない。
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DIYと分離発注の両輪で補修完了
2020年に健全度IIIの橋梁補修をほぼ全て完了した熊本県玉名市。直営補修で有名な同市だが、それだけで達成できたわけではない。「分離発注」の採用を組み合わせて、地元の建設会社の力を活用していた。
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直営化の先駆者、「自ら点検」を継続
2006年度から、橋梁の直営点検・診断に取り組んでいる高知県。14年度に近接目視点検が義務化された後も、2割強の橋で直営を続ける。自治体が自ら点検を手掛けるメリットを、直営化の先駆者の取り組みに見る。
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市の点検・診断効率化に大学が一役
長崎市は2020年度から、長崎大学に30橋の点検・診断業務を委託している。大学の知恵を診断に役立てる他、民間資格の「道守認定者」に点検を依頼し、活躍の場を提供する。市の直営化を支援する役目も果たし、維持管理の効率化を目指す。
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管きょも含めた初のコンセッション
高知県須崎市は、供用中の全ての汚水管きょに運営権を設定した事業を国内で初めて開始した。民間力を最大限に生かして、下水道事業の経営改善を図る。維持管理費用を料金収入で賄えない全国の下水道管理者から注目が集まる。
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全橋梁の保全を建設コンサルが担う
奈良県田原本町の橋梁で、自治体版ECI方式を導入した複数年包括委託業務が発注された。点検から補修設計、施工確認までを一気通貫で建設コンサルタント会社が担う。地元の施工者の育成に貢献しており、民間力を生かした取り組みとして注目を集める。
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住民主導型の点検で予防保全へ
維持管理で行政や民間に次ぐ第3の担い手として期待される住民。福島県平田村では日本大学の指導の下、村民が主体的に橋の点検を実施している。橋面上の汚れを見える化して、清掃活動などの予防保全につなげている。
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法定外道路の補修進める一手に
法定外や低優先度の道路などは、補修が後回しにされる。近隣の住民にとっては非常に重要なインフラであるケースも少なくない。住民が施工に携わる資材支給事業が、解決の一手になるかもしれない。
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シビックテックで市民の活躍増やす
市民がテクノロジーを活用して行政サービスの課題を解決するシビックテック。オープンデータ化に伴い、インフラの維持管理に大きな影響を与え始めている。市民が維持管理の新たな担い手として活躍する機会はこれからますます増えるだろう。
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点検・補修の担い手の質を確保せよ
様々な担い手がインフラを維持管理する時代になり、担い手の質をどう確保するかが課題となる。無資格者や研修の未受講者などに点検させている自治体はまだ多く、改善の余地がありそうだ。管理者である自治体職員の技術力向上も、併せて解決しなければならない。