法定外や低優先度の道路などは、補修が後回しにされる。近隣の住民にとっては非常に重要なインフラであるケースも少なくない。住民が施工に携わる資材支給事業が、解決の一手になるかもしれない。
道路や橋の定期点検が進む中、点検も補修もほとんど手つかずのインフラがある。道路法に基づかない里道や河川法に基づかない水路といった「法定外公共物」だ。地方分権の推進に伴って、2000年4月に自治体が管理しなければならなくなったが、その存在を十分に把握していない自治体は少なくない。
たとえ問題を認識していても、通常の市町村道でさえも補修がままならない自治体にとって、法定外公共物に十分な予算と技術者を振り分ける余裕はない。
そんな法定外公共物を維持管理していく一手として期待されるのが、資材支給事業だ。自治体が資材を支給して、住民がボランティアで施工を担う。数人以上の受益者がいる道路や水路を改良したり、補修したりする(写真1)。
通常の公共事業と比べると、施工費用が浮くため、平均して数分の1程度に建設コストを抑えられる。
仕事の丸投げと思われたくない
住民参加型のインフラ整備について詳しい拓殖大学の徳永達己教授などの調査によると、多くの自治体が同様の事業制度を創設している(図1)。中には、下水道や舗装、転落防止柵などの簡易な補修事業で利用している例もあった。
日経コンストラクションが取材を進めていて意外だったのが、資材支給事業をアピールしたがらない自治体の多さだ。その理由は取材を断ったある市の以下のコメントに集約される。「行政がやるべき仕事を住民に丸投げしているようで、事業についてあまり注目してほしくない」
ただ、これは事業のメリットをうまく住民に伝えられていない実態を表している。資材支給事業でこれまでに延べ34kmの道路を整備してきた福島県平田村の澤村和明村長は、次のように言う。
「住民がやる気を出せば、すぐにでも道路を舗装できる事業だ。住民は道路を使いやすくなる。建設コストを抑えられる点で自治体にもメリットがある。自分たちが主に使う道路なので苦にせず施工してくれる」
役所から住民に仕事を出すという考えから脱却して、双方が横並びで事業を進めていくという対等な関係を構築できている。
もちろん、資材支給事業にも課題はある。高齢化が進んで住民の労力は減るばかり。新たな活動者として期待される若い人は、仕事が忙しく活動に参加する時間がない。ある町の住民協働課の担当者は「10年ほど前は住民による活動が活発だったが、高齢化が進んで事業件数は年々減少している」と言う。
高齢者化は避けられない流れだ。一方、若手をどう参加させるかについては検討の余地がありそうだ。コロナ禍で若い世代の地方への移住は加速しており、今後もこの傾向は続くと見られるからだ。
1992年から30年近く資材支給事業を継続している長野県下條村では、移住してきた若手をうまく引き込んでいる。例えば、村の公営住宅に入る条件として、村の活動に参加することを課している。
「資材支給事業がきっかけで、地元に溶け込めたという人もいる」と下條村の宮島俊明副村長は明かす。