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技術士第二次試験では、受験者の代表的な業務経験に関して「立場」「課題」「解決策」「成果」などの記述が求められる。720字以内で技術士としてふさわしい資質を示すには、どんなテーマを設定すればよいのか。技術士試験対策に詳しい5Doors’の堀与志男代表に秘訣を聞いた。

 技術士第二次試験では、受験者が受験申込書に記した業務経歴について口頭試験で確認される。その時間は10~12分ほどしかない。しかし、「口頭試験で不合格となる受験者の大半は、業務経歴の書き方が悪い」と5Doors’の堀代表はみる(写真1)。

写真1■ 試験対策講座では、数多くの受験者から業務の課題を引き出してきた(写真:日経コンストラクション)
写真1■ 試験対策講座では、数多くの受験者から業務の課題を引き出してきた(写真:日経コンストラクション)
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堀 与志男(ほり・よしお)
5Doors’代表。技術士受験指導歴は25年に及ぶ。土木学会特別上級技術者。技術士の試験対策などで多数の著書がある

 特に、業務の「課題」の設定を誤ると、口頭試験での挽回が難しい。堀代表は、「多くの受験者が業務の設計条件や施工条件を課題に設定するが、それは間違いだ」と指摘する。与えられた課題を解決するのは、業務の一環にすぎないからだ。

 例えば、施工管理の科目で受験した場合。「地盤を深さ30mまで掘削したら出水したので、対策が課題となった」といった記述は、一見すると問題ないように見える。

 しかし、掘れば水が出るのは当たり前。工事の受注時に想定しているはずだ。遮水壁の構築など誰でも思い付く方法で解決できる。そもそも公共工事では通常、対策が困難な業務は発注されない。設計条件などで付された課題はマニュアル通りの対応で解決できる場合がほとんどだ。

 ただし、現場の条件が特殊で一般的な遮水壁が構築できなかったり、対策によってデメリットが生じたりする場合は話が異なる。そうした難点を克服した方法や折り合いを付けた内容について書けばよいのだ。「業務を一歩掘り下げ、自分なりの課題を探す必要がある」(堀代表)

業務の特殊性や大小は関係ない

 受験者が陥りがちな間違いはもう1つある。技術力を示すには、特殊な業務の経験が必要だと思う点だ。

 「それは誤りだ」と堀代表は断言したうえで、ある大規模プロジェクトにJVの3番手の会社から参加した技術者の例を挙げる。

 その技術者は当初、「杭の施工で世界初の工法を採用した」と業務経歴に書こうとした。工事の特殊性を掲げ、自身の技術力をアピールしようとしたのだ。

 しかし、試験官はJVの3番手の技術者が工事全体を左右するような工法選定の権限を持っていないと見抜く。技術者は口頭試験で細かく質問され、答えに窮するのは明らかだ。

 堀代表が話を聞くと、その技術者はJV内で杭の根固めの施工管理に従事。基礎地盤のサンプリング方法の検討やグラフを用いた施工品質の見える化などに取り組んでいた。

 「こうした地に足の付いた検討こそ、技術士にふさわしい」と堀代表は話す。工事の特殊性を持ち出さずとも、十分に合格に値するのだ。

 杭の上に建てるのが橋脚やマンションだったとしても、評価は変わらない。突き詰めれば、業務の特殊性や大小は関係ないのだ。発注金額が500万円ほどの平凡な業務の経験でも、課題解決のプロセスを示せば試験官は評価する。むしろ、「小規模な業務でそこまで考えたのかと感心されるだろう」(堀代表)