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土地区画整理事業に財政規模と比べて過大ともいえる事業費を投じようとする自治体に対して、一部の住民が事業の取り消しを求める訴訟を起こした。裁判所は、事業の必要性や有益性は認めたものの、資金確保に無理がある点などを基に違法と判断した。

 東京都羽村市が進める土地区画整理事業について、東京地裁は事業の必要性や有益性を認めながらも、資金計画が非現実的であることを理由に、事業計画の決定を取り消す判決を2019年2月22日に出した。市を提訴した住民の主張の一部を認めて、既に着工済みの事業を事実上中止するよう、市に命じた。

 一般に公共事業といえば、行政がひとたび計画決定して着手すると、財政難などで予算確保が厳しくなろうとも、自らの判断で中止することはまれだ。事業のコストに対する意識の低さの表れとも取れる。そのような行政の在り方を厳しく指弾した判決だと評価できる。

 区画整理事業の事業計画決定に関して、住民が自治体を提訴し、取り消しを求める原告として適格である、すなわち取り消しによって「法律上の利益」を得る立場であることは、浜松市の区画整理を巡る08年9月10日の最高裁判決で認められた。羽村市の区画整理に対する東京地裁の判決では、この原告適格を認められた住民が自治体に初めて勝訴した。画期的な判決といえる。

道路整備などの必要性は認める

 羽村市で進行中の区画整理事業は、JR青梅線の羽村駅西口付近に広がる約42haの宅地などを対象とする(写真1図1)。判決の対象となった事業計画は、市が03年度に定めたものを14年12月に変更して決定した。当時の事業費は370億円で、国や都の補助金を除く約7割を市費で賄うと見込んでいた。

写真1■ 羽村市がJR羽村駅西口付近で進める土地区画整理事業の現場。裁判所は、市がこの事業で道路や雨水排水施設などを整備する必要性は認めた(写真:日経コンストラクション)
写真1■ 羽村市がJR羽村駅西口付近で進める土地区画整理事業の現場。裁判所は、市がこの事業で道路や雨水排水施設などを整備する必要性は認めた(写真:日経コンストラクション)
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図1■ 計画地の一部で工事が進む
図1■ 計画地の一部で工事が進む
20年度末時点の事業の進捗率は事業費ベースで21%だ。羽村市の資料を基に日経コンストラクションが作成
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 これに対して地権者など118人の住民が15年6月、事業計画決定の取り消しを請求して市を提訴した(写真2)。

写真2■ JR羽村駅西口付近の住宅街には、区画整理事業反対を訴える掲示板が散見される(写真:日経コンストラクション)
写真2■ JR羽村駅西口付近の住宅街には、区画整理事業反対を訴える掲示板が散見される(写真:日経コンストラクション)
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 住民はまず、市が区画整理で進める道路の拡幅や延伸などについて、歴史的景観の破壊であり、住環境を悪化させると主張した。そして、多摩都市モノレールの延伸が頓挫している現状では必要性もないと指摘。区画整理事業の目的を「公共施設の整備改善」などと定義する土地区画整理法2条1項に違反していると訴えた。

 さらに、事業の遂行に市の歳入では賄いきれない資金を要する点について、資金計画の確実性などを定めた同法施行規則10条に違反すると主張(図2)。自治体に合理的な支出を求める地方自治法や地方財政法への違反も指摘した。

図2■ 住民は資金計画を「荒唐無稽」と批判
図2■ 住民は資金計画を「荒唐無稽」と批判
土地区画整理法への適合性を巡る住民の主張と東京地裁の判断のポイント。判決文などを基に日経コンストラクションが作成
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 東京地裁の判決は、事業が土地区画整理法2条1項に違反するかどうかについて、原告の主張を退け、整備する道路など公共施設の必要性を認めて事業内容を肯定した。

 羽村駅西口付近の道路が、現状では大半が幅4m未満で、交通安全上も防災の面でも問題があると指摘。雨水の排水や公園の不足についても市民に不満があったことなどを根拠として、市が区画整理で建設する施設は「公共施設の整備改善」といった同法2条1項の趣旨に適合していると認めた。

 公共性がある事業計画の決定が適切か否かについて、裁判所は行政に広い裁量権を認めがちだ。東京都による小田急線高架化事業認可の取り消しを求める沿線住民の訴えを退けた06年11月2日の最高裁判決が、その傾向を決定付けた。

 最高裁はこの判決で、事業計画の決定が不適切だと認定するのは、重要な事実に対する誤認や不合理な評価に基づいて決定している場合か、計画の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合に限定している。この判例が本件での東京地裁の判断に影響を与えたとみられる。