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高層ビルなど民間の建築工事で、日照を巡り近隣住民と事業者・施工会社との間でトラブルとなる例は珍しくない。一方、インフラなどの公共工事でも、まれではあるが問題は発生する。今回は、高架橋で起こった裁判例を踏まえ、日照権侵害に対する法的な考え方を解説する。

 新東名高速道路の豊田東ジャンクションの高架橋を巡り、近隣住民が中日本高速道路会社に対して、日照侵害を理由に損害賠償を求める裁判を起こした。

 一審の名古屋地裁岡崎支部の判決(2020年2月)では、冬至の日影時間を基に補償は不要と判断。しかし、名古屋高裁の控訴審判決(20年7月)では、日陰になる時間が最も長い時期を基に日照権侵害を認めた。中日本高速は上告しなかった。

 被害を受けた住民の住む建物では、冬至の日影時間は1時間程度にすぎない。しかし、春分や秋分の頃には建物が高架道路の橋桁の影に入るため、日影時間が午前8時30分ごろから午後4時ごろまでの7時間程度に及ぶ(写真1、2)。

写真1■ 被害を受けた住民宅付近から見上げた新東名高速道路の橋桁(写真:住民側弁護団)
写真1■ 被害を受けた住民宅付近から見上げた新東名高速道路の橋桁(写真:住民側弁護団)
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写真2■ 新東名高速道路の豊田東ジャンクション付近の高架区間。必ずしも冬至の時に日影時間が最も長くなるわけではない(写真:住民側弁護団)
写真2■ 新東名高速道路の豊田東ジャンクション付近の高架区間。必ずしも冬至の時に日影時間が最も長くなるわけではない(写真:住民側弁護団)
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 国土交通省が各地方整備局などに宛てた通知「公共施設の設置に起因する日陰により生ずる損害等に係る費用負担について」(03年7月11日改正)では、冬至の日影時間が3~5時間に及ぶ住宅の住民を補償の対象と定めている(図1)。中日本高速はこの通知にのっとり、住民を補償の対象から外していた。

図1■ 国交省の通知では「冬至」と明記
図1■ 国交省の通知では「冬至」と明記
国土交通省が2003年7月に改定した通知「公共施設の設置に起因する日陰により生ずる損害等に係る費用負担について」。赤線は日経コンストラクションが加筆(資料:国土交通省)
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国交省の通知は法令ではない

 一審判決では、国交省の通知内容に基づく中日本高速の主張を認め、住民の賠償請求を認めなかった。しかし名古屋高裁は、国交省の通知は法令ではないから裁判所の判断を拘束するものではないと指摘。通知の基準を満たさない場合でも、受忍限度を超える日照被害が認められることはあり得るとの判断を示した。

 建築物で生じる日影の場合、冬至の時に最も時間が長くなるのが普通だ。本件のように橋桁が上空を横断する高架道路の場合、住宅との位置関係によって日影時間が最長となる時期が大きく異なる。「冬至の時が最も日影時間が長くなる」という大前提は当てはまらない。

 控訴審では、冬至のみを基準とするのは必ずしも合理性がないとして、年間を通じた日照被害の状況も考慮して受忍限度を判断している。

 地域性については、当該地域が都市計画法上の市街化調整区域内にあり、用途指定がない点に言及。周囲に高層建築物などのない郊外に位置しており、高速道路のような幹線道路は郊外に建設されるのが一般的だとして、特段、地域性を考慮する必要はないと評価した。

 判決では、慰謝料として住民1人につき50万円、弁護士費用として損害額の1割に当たる5万円の計55万円を支払うよう中日本高速に命じた。

 この控訴審判決のポイントとなる国交省通知に対する名古屋高裁の考え方は、以下の通りとみられる。

 国交省の通知は、あくまでも憲法29条3項に基づく損失補償の観点から、公共事業によって損失を被る住民に対して、適法か違法かを問わず一律に補償する基準を定めている。また、通知は行政機関が自治体や業界団体などに出す連絡事項をまとめたもので、事業執行上で参考とする行政の一判断にすぎない。国会で制定される法律とは異なり法的拘束力がないため、最終的に受忍限度、つまり違法性を判断するのは裁判所の役割である──。