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東日本大震災では、救援に向かう人や避難する住民に十分な情報が届かなかった。その教訓を基に、災害直後にリアルタイムで正確な被災情報を出す技術が求められた。想定外の事態にも対応できる津波被害のシミュレーションや避難誘導システムが生まれている。

 地震や津波といった巨大災害の発生直後は、被害を受けた地域からの情報が途絶えることが多い。混乱時の限られた情報で被害の規模を見積もり、迅速な救援を実現しなければならない。

 シミュレーションは、被災した現地の情報がほとんど無くても被害を推定できる。しかし東日本大震災では、想定と比べて津波がはるかに高く、浸水範囲も広かった。シミュレーションによる事前予測から大きく外れたため、人工衛星やヘリコプターで実際の被害を確認してから対応せざるを得なかった。救援や復旧が遅れたのは苦い経験だ。

 そのような震災の教訓をかてに生まれたのが、スーパーコンピューターを使った「リアルタイム津波浸水・被害推計システム」だ(図1)。東北大学災害科学国際研究所の越村俊一教授が中心となって開発した。地震の発生から30分以内で、地域ごとに津波の浸水被害を予測できる。

図1■ 津波の浸水被害を30分以内で予測
図1■ 津波の浸水被害を30分以内で予測
リアルタイム津波浸水・被害推計システムの出力結果例。浸水深分布を示す(資料:越村 俊一)
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 従来の予測では、地震規模や震源地を想定した津波シミュレーションを、あらかじめ複数回にわたって実施。その結果をデータとして蓄積する手法を用いていた。

 「蓄えた予測の中から、津波の沖合の観測結果に最も近い結果を抽出する手法だったため、想定外への対応が難しかった」と越村教授は明かす。

 これに対して、新たに開発したシステムは、地震発生後に動いた断層を推定し、スーパーコンピューターによる解析で都度、被害予測をはじき出す。

 研究成果を運用、普及するために国際航業と東北大学ベンチャーパートナーズ、エイツー(東京都品川区)、NECが2018年に大学発のベンチャー企業であるRTi-cast(アールティアイキャスト)(仙台市)を共同で設立した。国や自治体だけでなく、保険会社や鉄道会社などにも普及が進みつつある。

 被害推定の対象範囲も拡大していく。現在は南海トラフ巨大地震や相模トラフで発生する地震を対象にしている。それが21年度からは、他の地震なども対象に含めた北海道から鹿児島県までの太平洋沿岸全域の被害を推計できるようになる。