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想定外の災害からの復興は極めて難しいと、東日本大震災で多くの自治体が痛感した。南海トラフ巨大地震や首都直下地震など、今後も大規模災害が訪れる確率は高い。東日本大震災と同じ徹(てつ)を踏まないために、災害前から復興を検討しておく「事前復興」が重要になる。

 東日本大震災では、津波被害の規模が事前の想定をあまりにも超えていて、その後の復旧・復興を手探りで進める羽目になった。東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻の中井祐教授は、「平時から災害の発生を想定した準備をしておかなければ、非常時に対応できない」と事前復興の必要性を話す。

 事前復興とは被災後に進める応急対応の手順や進め方を事前に準備しておく他、復興時の街の目標像を事前に検討する取り組みだ。被災後の復興の難しさを考えて、平時から災害に強い街を整備する行為も含む。

 事前復興に力を入れているのが、南海トラフ巨大地震で最大高さ約34mの津波が襲うと想定されている高知県黒潮町だ。

 「2012年に内閣府から被害想定が公表された時、あまりの規模に住民の間には諦めムードが漂っていた」。黒潮町情報防災課南海地震対策係の宮川智明係長は、こう振り返る。住民の防災意識を変えるため、地道に対策に取り組んできた。

 例えば、庁舎の高台移転(図1)。震災前には旧庁舎の近くに建設する予定だった。しかし、東日本大震災で津波による被害を受けた庁舎が、災害対策機能を失った事例を考慮して、移転地を変更した。

図1■ 津波の浸水避けて、庁舎を高台移転
図1■ 津波の浸水避けて、庁舎を高台移転
東日本大震災による想定外の津波被害を受けて、南海トラフ巨大地震に対する被害想定を見直した。当初計画していた候補地から、高台への移転を決めた。黒潮町情報防災課への取材と資料を基に日経コンストラクションが作成(資料・写真:黒潮町)
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 津波が到達するまでの避難が難しい地区では、津波避難タワーを6基建設した。浸水深が18mと想定される佐賀地区のタワーは、国内最大級の高さ22mを誇る(写真1)。

写真1■ 津波によって、高さ18mまでの浸水が想定される黒潮町佐賀地区に建設した津波避難タワー。避難フロアまでの高さは22m(写真:黒潮町)
写真1■ 津波によって、高さ18mまでの浸水が想定される黒潮町佐賀地区に建設した津波避難タワー。避難フロアまでの高さは22m(写真:黒潮町)
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 東日本大震災を上回る規模の津波が来るにもかかわらず、防潮堤を選択しなかったのは、予算の確保が難しかったからだ。ただ宮川係長は、「目の前で津波避難タワーなどの防災インフラが整備され、住民の防災に関する意識が高まった」と話す。