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地震動予測でも、AI(人工知能)を使えば予測の精度を高めることができる。ただしAIだけでは、まれにしか生じない強い地震動を過小評価する傾向があった。従来の地震動予測式とAIを組み合わせ、互いの弱点を補うことで精度向上を図った。

 地震ハザードマップや緊急地震速報などに利用する地震動予測も、AI(人工知能)を活用することで予測の精度を高められる。従来の予測に使っていた手法も併用することで、両者の欠点を補い合ってより高精度の予測が可能になる。

 それを実現したのが、防災科学技術研究所の開発した「地震動のハイブリッド予測手法」だ。従来の地震動予測式とAIの機械学習を組み合わせた。機械学習では過小評価される強い揺れを、地震動予測式で補って予測精度を高められる(図1)。

図1■ 強い揺れを機械学習より現実に近く予測
図1■ 強い揺れを機械学習より現実に近く予測
2016年の熊本地震における地表最大加速度の分布。観測データと予測データを比較した(資料:防災科学技術研究所)
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 地震動予測式は、「地震の規模」と「予測地点の震源からの距離」「予測地点の揺れやすさ」を基に、過去の地震データを加味したものだ。過去の知見を踏まえた計算式なので、発生頻度の低い強い地震動でも比較的安定して予測できた。計算も複雑ではないため、一般に広く利用されている(図2)。

図2■ 機械学習は低頻度の事象は苦手
図2■ 機械学習は低頻度の事象は苦手
機械学習と地震動予測式の特徴を比較した。互いにメリットとデメリットがある(資料:防災科学技術研究所)
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 半面、その式に当てはまらない地震動だと、頻度が高くても予測は苦手だった。式が固定化しているので、柔軟性に乏しいところが弱点だ。

強い地震動は学習機会が少ない

 機械学習のメリットとデメリットはその逆だ。データに基づく高度な予測が可能で、地震動を求める計算式に頼らないので柔軟性も高い。ただし、頻度の低い事象が苦手だ。検証すると、まれにしか生じない1000ガルを超えるような強い地震動だと、実際の観測データより弱く予想する傾向があった。

 頻度の低い事象の予測を苦手とするのは、学習する機会が少ないからだ。機械学習では、学習データを用意して、その傾向を学んでいく。そのため、頻度の低いデータの傾向はあまり学習できず、結果としてうまく予測できないのだ。

 「頻度の低いデータに重みを付けて学習させてみたが、強い地震動の予測精度は上がらなかった」。開発を担当した防災科学技術研究所地震津波火山ネットワークセンターの久保久彦研究員はそう話す。