遠隔臨場ではカメラを通じて現場を見るので、対面でのやりとりに比べて視界が制限されやすい。加えて撮影する人手が余分にかかる──。遠隔臨場を導入している現場ではこんな問題をどう乗り越えているのか。広く普及するビデオ会議ツール「zoom(ズーム)」とタブレットを使った遠隔臨場の事例で見てみよう。
現場は和歌山県北山村で建設中の奥瀞(おくどろ)道路の仮設桟橋。発注者は国土交通省近畿地方整備局で、施工者は佐藤工業だ。2020年度から桟橋の鋼管杭の材料検査などで遠隔臨場を実施している。
受注者側が使った機器はタブレット(iPad)1台だけだ。本体に内蔵されているカメラとマイク、スピーカーを使ったビデオ会議で現場に臨んだ。発注者側は現場から車で片道約1時間かかる和歌山県新宮市の紀南河川国道事務所新宮建設監督官詰所から、監督官がパソコンでzoomに接続した。
現場では鋼管杭の長さを確認していた。強い磁石で目盛りが0の部分を固定して、メジャーの端部を持つ人を省いた(図4)。目盛りを読む前には、メジャーの0点の位置がずれていたり、伸ばしたメジャーがたるんでいたりしない状況を撮影し、受発注者で確認していた。
計測対象を取り違えるリスクを回避するための工夫も凝らしていた。まずは現場の全景を見せてから、その後で何を大きく映すのかを受発注者で話しながら進めるようにしたのだ。目盛りや帳票などの小さい数字は、会話しながらカメラを徐々に近づけて大きく映し、数字を読み上げて確認するようにしていた(図5)。
一方で、気になる点もあった。撮影者は検査の途中で黒板への書き込みなど作業に戻る必要が生じたため、タブレットを資材の上に置かざるを得ない場面があった。タブレットは建設現場向けの工具や機器類と違って壊れやすいため、安全にタブレットを置いたり首や肩から提げたりする用意が必要になりそうだ。
夕方以降の検査や日当たりの悪い場所での検査は、周囲が暗くなるためにカメラ越しの映像が見づらくなりそうだ。現場では今後、必要に応じて照明設備の設置を検討するという。