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古い水道管ほど破損しやすいとは限らない──、兵庫県朝来市の漏水実績から明らかになった事実だ。米スタートアップのFRACTAは管径や材質、周辺の土壌などのデータからAIで破損確率を算出。これを基に更新の優先順位を定めれば、維持管理コストの削減につながる。

 「漏水実績のデータを渡していないのに、算出された破損確率が実態と合っていた」。兵庫県朝来市都市整備部上下水道課の小谷康人課長は驚きを隠さない。

 朝来市の上水道管の破損確率を求めたのは、AI(人工知能)を開発する米スタートアップ企業のFRACTA(フラクタ)だ。2020年に朝来市が水道管の製造・販売を手掛ける日本鋳鉄管(東京都中央区)に、水道管の劣化予測と台帳整備を発注。日本鋳鉄管はフラクタに、AIを使った破損確率の算出などを委託した。

 市は約36km2の区域で約1万3000戸への給水を手掛ける(図1)。1990年代に敷設が進んだため、法定耐用年数の40年に満たない水道管が多い。それでも漏水がたびたび発生し、補修費用がかさんでいた。

図1■ 職員4人で上水道を管理

【朝来市の水道事業の概要】

  • 給水人口:約3万人
  • 給水戸数:約1万3000戸
  • 給水区域面積:35.95km2
  • 管路データの欠損率は敷設年度が約50%、口径が約14%、管種が約15%
  • 上水道の担当職員は4人で、2000年代前半に比べて3分の1程度に減少

【管路の破損予測】

  • 2020年に日本鋳鉄管と契約し、フラクタのAIを使って管路の破損確率を算定
取材を基に日経コンストラクションが作成

 市で上水道を担当する職員は現在4人と、2000年代前半に比べて3分の1近くに減少。全員が漏水対応に追われ、効率的な更新計画を策定する必要が生じていた。

 職員の間では「場所によって管の劣化の進行に差がある。管を古い順に更新していてはだめだ」との認識があり、管路ごとに破損確率を算出する必要性を意識していた。だが当初は分析手法の検討はおろか、データの整備も十分ではなかった。

 管路の位置情報はGIS(地理情報システム)で管理し、管の素材や口径などのデータとひも付けている。しかし、データの一部は電子化していなかった。敷設年度で約50%、口径で約14%、管種で約15%の電子データが、それぞれ欠けていた。漏水実績は一覧を電子化済みだったが、管路データとは別に管理。補修内容の詳細は紙で記録していた。

 フラクタはこれまでに、米国や日本で管路データと漏水実績、そして土壌や河川、交通、気象などの外部環境データ100種類以上をAIに学習させて水道管の破損確率を算出している。国内では神奈川県営水道や川崎市、神戸市、愛知県豊田市などの水道事業者の施設で実績を積んできた。国内外合計で約100の事業者を顧客にしてきた。

 朝来市では新たな試みとして、市の漏水実績データを使わずに破損確率の算出を試みた(図2)。開発を重ねてきたAIに朝来市の管路データと外部環境データだけを入力。欠けている管路データは紙の資料から補完したほか、一部は配水池の整備時期などから推定した。

図2■ 日本汎用モデルでは朝来市の漏水実績を使わずに破損確率を算出
図2■ 日本汎用モデルでは朝来市の漏水実績を使わずに破損確率を算出
取材を基に日経コンストラクションが作成(資料:フラクタ)
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 算出した破損確率は、18年から20年までの漏水実績と照らし合わせた。まずは古い管路ほど破損しやすいと想定した「経年モデル」と比較。経年モデルでは敷設年の古さで上位50%の管路に含まれる漏水実績が約半数で、無作為に管路を選ぶのと変わらない結果となった。

 一方、これまでに学習させた国内外のデータに基づく「日本汎用モデル」で破損確率を求めると、確率の高い上位10%の管路で、検証対象とした3年間の漏水54件の半数近くが発生していた(図3)。経年モデルに比べて精度が高いと確認できた。

図3■ 経年に基づく予測よりも高い精度を確保できた
図3■ 経年に基づく予測よりも高い精度を確保できた
2017年までに敷設されている朝来市の全管路1万346セグメントについて、(1)~(4)のモデルで各セグメントの破損確率を算定。破損確率の高い順にセグメントを並べて横軸に取った。縦軸は18~20年に漏水が発生した件数。グラフは、横軸で示した数よりも上位のセグメントで漏水が発生した件数を示す。例えば(4)の「ハイブリッドモデル」では、全54件の漏水のうち半数近くが破損確率上位10%に当たる1035セグメントで発生している(資料:フラクタ)
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 この計算とは別にフラクタは、管路データと外部環境データに加え、従来通り朝来市の漏水実績(05~17年)を学習させた「地域特化モデル」を作製。さらに、各管路で日本汎用モデルと地域特化モデルで算出した破損確率の中間値を取った「ハイブリッドモデル」を作った。いずれも経年モデルよりも高い予測精度が得られた。

 市の小谷課長は「鋳鉄管は塩化ビニール管に比べて長持ちすると認識していた」と打ち明ける。しかし、フラクタの予測では一部の鋳鉄管で想定以上に破損確率が高く出た。「本当にその管が破損しやすいのか、今後の経過を注視したい」(小谷課長)

 市は今後、予測結果を基に破損確率の高い管路を優先して更新する。破損確率が低く、法定耐用年数を超えても使えそうな管は長く運用する考えだ。今後40年間、敷設年数に基づいて更新していく場合と比べ、費用を約2~3割削減できると見込む(図4)。

図4■ 劣化予測を活用して維持管理費を削減
  • 破損確率の高い管路を優先して更新することで漏水事故を減らし、補修費用を抑える
  • 破損確率の低い管路は法定耐用年数の40年を超えても運用する
  • 道路を担当する他の課などと破損確率を共有し、道路の補修と水道管の更新を連携させる
朝来市の取り組み。取材を基に日経コンストラクションが作成

 小谷課長は予測結果が市の業務効率も改善すると期待を寄せる。「道路の維持管理を担う課と水道管の破損確率の情報を共有すれば、道路を臨時で補修する際、同時に管路を更新するかどうか確認できる」(小谷課長)

 日本水道協会によると、全国の管路総延長のうち1年間で更新した割合を示す「更新率」は18年度の実績で0.68%(図5)。現状のペースだと全ての管の更新に140年以上かかる。耐用年数を大きく上回る数字だ。

図5■ 管路更新率は低い水準で推移
図5■ 管路更新率は低い水準で推移
水道管の管路更新率と法定耐用年数を超えた管路の割合の推移。「管路更新率」は、管路総延長のうち、1年間に更新された管路延長の割合。日本水道協会「水道統計」を基に日経コンストラクションが作成
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 今後は人口減で水道の料金収入が減る自治体を中心に、水道施設の維持管理が難しくなる。「劣化予測や重要な施設につながる管路などを考慮して更新計画を立てる必要がある」。フラクタの日本法人の樋口宣人代表はそう語る。

 樋口代表によると、水道事業の効率化に向けて事業者同士が連携する場合などは、劣化の予測が一段と重要になるという。

 水道料金は地域によって差があり、連携に伴って料金設定や予算配分をどのように調整するか議論する必要が生じるからだ。互いの地域の水道インフラがあと何年使えて、維持費用がいくらかかるのかを見積もるために破損確率が役立つという。

 フラクタがAIに学習させたデータは、管路の総延長で約20万km、漏水実績では約30万件に上る。破損確率を算出するAIと管路データベースの整備事業を日本の自治体に売り込んでいく考えだ。

 21年4月には外部環境データだけを使って、国内各地の水道管の破損確率を算出したリポートを公開した。日本全国の居住地域を100m四方のメッシュに分割し、人口や土壌など外部環境データを使って破損確率を算出。局地的に破損確率の高い地域があることを示した(図6)。

図6■ 局所的に管路の劣化しやすい地域がある
図6■ 局所的に管路の劣化しやすい地域がある
日本全国の居住地域を100m四方のメッシュに分割し、人口、土壌、河川、交通、気象など100種類以上のデータを基にフラクタのAIが各メッシュ内にある管路が一定期間で破損する確率を算出。各市町村に含まれるメッシュの破損確率の平均値を求め、ヒートマップに示した。凡例のカッコ内の数字は自治体の数(資料:フラクタ)
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