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水を残して化学的平衡状態に

 「産業技術総合研究所が、砂から有機ケイ素の原料を製造する技術を既に開発していた。そこに着想を得た」と酒井准教授は明かす。

 砂に含まれる主成分である二酸化ケイ素(SiO2)とアルコール(ROH)を反応させると、テトラアルコキシシラン(Si(OR)4)と水(H2O)を生成する(図1)。テトラアルコキシシランは、電子デバイスの保護膜や絶縁膜の原料などに使われる有機ケイ素の原料だ。

図1■ 水を残して平衡状態を保つ
図1■ 水を残して平衡状態を保つ
東京大学酒井准教授への取材と資料を基に日経コンストラクションが作成
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 ただし、テトラアルコキシシランを生成しても、水と反応して二酸化ケイ素とアルコールに戻る可逆反応がすぐに生じる。そこで水を除去して、テトラアルコキシシランを効率良く得られる技術を開発したのが産総研だ。

 他方、酒井准教授はあえて水を残すことで、化学的な平衡状態を生み出せる点に目を付けた。二酸化ケイ素(固体)とテトラアルコキシシラン(液体)を、どちらとも存在させるのだ。

 この際、テトラアルコキシシランは水と反応してゲル状の物質となり、二酸化ケイ素の粒子と粒子の間に入って接着剤のような働きをする。冷却すると、最終的には砂の粒子の隙間を充填し接着。硬化体の強度が高まる仕組みだ。

廃ガラスでも硬化体をつくれる

 使える材料は砂だけに限らない。廃ガラスなど二酸化ケイ素を含む材料であれば、同じく硬化させられる(写真2)。

写真2■ 二酸化ケイ素を主成分とするガラスビース(上の写真左)とアルコール、触媒を加熱して製造した硬化体(上の写真右)。顕微鏡で見ると、粒子と粒子を接着している状況が分かる(右の写真)(写真:東京大学生産技術研究所酒井雄也研究室)
写真2■ 二酸化ケイ素を主成分とするガラスビース(上の写真左)とアルコール、触媒を加熱して製造した硬化体(上の写真右)。顕微鏡で見ると、粒子と粒子を接着している状況が分かる(右の写真)(写真:東京大学生産技術研究所酒井雄也研究室)
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 「触媒に水酸化カリウムなどを使い、約200℃で加熱して一晩おくと塊になっている」。酒井准教授はこう話す。1000℃以上が必要な溶融などに比べると加熱温度が低いため、CO2の排出量を抑えられる。

 砂による硬化体にはセメントペーストがないので、セメント硬化体が持つ欠点を回避できる。カルシウムが溶け出すことがない、多孔質なので乾湿に強く体積の変化が起こりにくい、酸などの薬品に強い──といった特徴があり、高い耐久性を期待できる。繰り返し利用可能な点も特長だ。

 実用化に向けた今後の研究課題は、強度向上や硬化体の大型化などだ。強度については例えば、ゲル状の生成物であるテトラアルコキシシランが再び二酸化ケイ素に戻るよう反応を促す対策が考えられる。前述の化学式の平衡状態からアルコールを除去することでその反応を促し、硬化体の強度を高める。

 その他、砂の粒度分布の最適化などで強度を高める方法もある。「できるだけエネルギーを使わない方法を見つけて、実用化に近づけたい」(酒井准教授)

 大型化については、より容量の大きな製造装置での実験を予定する。大型にしても、物性に大きな変化が生じないか検証していく。