劣化しても自ら治癒し、更新工事の機会を減らせるので、脱炭素の一翼を担うと期待されている自己治癒コンクリート。量産化に成功した會澤高圧コンクリートに続けと、愛媛大学などが納豆菌を使った自己治癒材の開発を進める。生物代謝を利用して鉄筋の腐食も抑える新タイプだ。
愛媛大学と海上・港湾・航空技術研究所港湾空港技術研究所、安藤ハザマは共同で、微生物を混入した自己治癒コンクリートの開発を進めている。
自己治癒コンクリートといえば、国内では會澤高圧コンクリート(北海道苫小牧市)の技術を思い浮かべる読者が多いだろう。バクテリアと餌であるポリ乳酸を粉体状にした自己治癒化材「バジリスク」を、練り混ぜ時に混入するコンクリートだ。ひび割れから浸入した水がバクテリアを活性化させ、代謝物の炭酸カルシウムで損傷部を塞ぐ。
愛媛大学などが開発する自己治癒コンクリートでは、枯草(こそう)菌の一種である納豆菌を補修材として使う(写真1)。コンクリートのような高いpH値の環境下でも高い耐性を持つ菌だ。この納豆菌が二酸化炭素を排出し、炭酸カルシウムを析出してひび割れを埋める(写真2)。その機構は、會澤高圧コンクリートのものと変わらない。

ただ納豆菌を使った技術の効用はそれだけではない。愛媛大学などは「菌の呼吸」によって鉄筋の腐食抑制も狙う。どういうことか。
鉄筋は、塩化物イオンが浸透して不動態被膜が破壊される(アノード反応)と同時に、生じた電子を消費するカソード反応が過不足なく起こって腐食する(図1)。
これまでは、アノード反応を促す塩化物イオンの浸透を抑制するための対策が多かった。例えば、コンクリート表面への被覆材や鉄筋への塩分吸着剤などの追加だ。ただし、塩害環境下ではどの方法を採用しても、塩化物イオンの浸透を完全に防ぐのは難しかった。
そこで目を付けたのが、もう1つのカソード反応の抑制だ。同反応に必要な酸素を減らすため菌を使う。
「コンクリート中の酸素を、好気性微生物の代謝で減らして鉄筋の腐食を抑制する。世界でも初めての取り組みではないか」。共同開発者の1人である港湾空港技研材料研究グループの西田孝弘主任研究官は、こう説明する。