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多くの道路で開通後の実績交通量が計画交通量を下回っている。人口減少で交通量増加が見込めないなか、整備した道路で得られた知見を活かす取り組みが重要となる。事後評価をアーカイブ化する動きが活発になっている。

 事業計画時や再評価などで求めた計画交通量はどの程度、信頼できるのか。国土交通省が直轄する道路事業や高速道路会社による道路事業について、2018年度から20年度までの事後評価結果から、計画交通量と実績交通量の変動を地図にプロットした(図1)。

図1■ 約7割に当たる57事業で実績交通量が計画交通量を下回った
図1■ 約7割に当たる57事業で実績交通量が計画交通量を下回った
国土交通省の資料を基に日経コンストラクションが作成。2018年度から20年度までの道路事業の事後評価のうち、計画交通量と実績交通量が得られた85件について変動の割合をまとめた。交通量に幅がある場合は、最大値同士を比較した。数字は小数第1位を四捨五入しており、単位は%で示す。国交省直轄もしくは高速道路会社が発注する事業が対象。暫定2車線で開通した道路には完成4車線で計画交通量を算出している場合なども含む
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 事後評価は、道路の完成時から5年以内の一定期間が経過した事業などで実施する。事業費や事業期間が当初の想定と比べてどう変わったかや、道路整備によって得られた効果などをまとめている(図2)。

図2■ 道路完成から5年以内に評価する
図2■ 道路完成から5年以内に評価する
国土交通省の資料を基に日経コンストラクションが作成
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 18~20年度の事後評価では、85事業のうち約7割に当たる57事業で実績が計画を下回っていることが分かった。一般的に交通量が減るとB/Cは下がる。新設道路の有無による周辺道路の走行時間費用や走行経費の変動幅が小さくなるからだ。

 新潟市で14年に開通した国道7号万代橋下流橋では、1日当たりの交通量が1万6200台と計画時の3万6500台を56%下回った。国道7号のバイパスとして交通事故の減少などに寄与するものの、B/Cは2.0から1.1に低下している。

 事後評価の対象事業では、実績交通量を計測した年度の約10年後の交通量で計画を立てたケースなどもあるため、変動した割合の精度にはばらつきがある。だが仮に期間を揃えたとしても、今後実績交通量が大幅に増える見込みは薄い。

 ただし、交通量が計画を下回った道路の中には島根県の国道9号仁摩・温泉津道路のように、前後の自動車専用道路が未開通の事業も含む。

 この道路は交通量が計画時に比べて63%少ないが、将来全線が開通すれば交通量の増加を見込める。現在暫定2車線であることも、実績交通量を押し下げている。裏を返せば、同様の路線は周辺の道路事業が長引けば交通量の増加は見込めない。

 一方で、近畿自動車道紀勢線を南に延伸した尾鷲北インターチェンジ(IC)から紀伊長島ICの区間では、交通量が39%増えた。札幌市近郊の国道337号当別バイパスや仙台市近郊の国道45号仙塩道路など、大都市周辺で交通量が増えた事例もあった。

 国の調査や推計によると、日本の人口は10~18年度に1.5%減少した。一方、一般国道と高速自動車国道の合計延長は同時期に2.9%増えている(図3)。整備した道路の維持や補修の費用が増えるなか、限られた予算を新規の道路整備に配分する際の説明責任は一段と重くなる。

図3■ 国内の人口は既に減少局面にある
図3■ 国内の人口は既に減少局面にある
人口は2015年度までが国勢調査および国勢調査に基づく推計、16年度以降は国立社会保障・人口問題研究所の17年推計を基に日経コンストラクションが作成。推計値は出生・死亡ともに中位の場合。道路の延長は「道路統計年報2020」に基づいて日経コンストラクションが作成
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