公共事業評価の導入から四半世紀近くが経過し、道路事業を取り巻く環境は変化している。費用便益比(B/C)をはじめとした現状の評価に足りない視点は何か。これからの公共インフラの考え方を専門家に聞いた。
自動運転が普及すれば今の仕組みで便益測れず
過去と比較すると、最近の公共事業の新規採択では、人口減少などによる見込み交通量の減少に伴って費用便益比(B/C)が小さく出る傾向にある。事業評価を導入した頃と比べると、防災効果をはじめ事業を実施する意義などを説明するための作業が増えている。
整備を進める事業について、B/Cをはじめとする現行の評価はもちろん重要だ。だが20年、30年先の社会における道路整備を考えると、評価制度の抜本的な見直しが必要となるだろう。
例えば自動運転が普及すると、車の走行中に執務や娯楽が可能となり、新たな付加価値が生まれる。走行時間が減る価値を貨幣換算する現在の国の仕組みだけでは、測れない便益が出てくる。将来の社会の在り方も踏まえながら、国や道路会社などと研究を進めることが必要だ。
評価の運用にも工夫の余地がある。例えば事後評価。道路が完成した直後に、渋滞の解消や周辺地域の移動時間の短縮を考慮することはできる。一方で、産業の活性化や物流網の拡大といった効果は中長期間、経過しなければ現れない。
東日本大震災の後に整備が進んだ三陸地域の自動車道では、ようやく効果が見えつつある。ある地域に立地した企業では別の自治体から車で通勤しやすくなった結果、広いエリアから雇用を確保できている。生鮮食品や製造業などで高価な物品を運ぶサプライチェーンなど、新たな便益が生まれている可能性もある。
事業者は当初見込んだ長期的な想定に比べて、効果の発現に差がないかどうかやその原因、対応策を長期的に検証すべきだ。自治体であれば完成後の道路をどう活用すれば地域のビジョンを実現できるのか、住民と対話しながら模索すべきだ。
国と比べると、地方自治体は評価に使える予算やデータが限られる。国と都道府県の道路事業とでデータを連携させることが重要だ。(談)
