車線を減らし歩道を拡幅した松山市の街路で、商店街に効果が波及し始めた。従来の費用便益分析では、こうした事業の効果は求められない。SDGsや自動運転、続々と現れる新しい概念に事業評価はどう対応すべきなのか。
松山市の中心部を走る花園町通りで2021年6月20日、約半年ぶりに「お城マルシェ」が開かれた。飲食や物販など約30店のブースが延長50mの歩道にところ狭しと並び、多くの来場者でごった返した。月に1度開かれるこのイベントは大好評。評判は市外にも及び、1日に5000人程度が集まるという。新型コロナウイルス禍で開催頻度は減ったが、それでも人気は衰えない。
マルシェが始まったのは17年。花園町通りのリニューアルがきっかけだった。このプロジェクトから、費用便益分析の限界が透けて見える。
花園町通りは市道で、市の中心駅である松山市駅と松山城の城山公園を結ぶ(写真1)。片側2車線だったが、市が進める「歩いて暮らせるまち松山」のコンセプトの下、17年9月までに片側1車線に生まれ変わった(図1)。総事業費は約12億5000万円だった。2車線から1車線へ車線を「減らす」インフラ整備である。
道路空間を縮小することで生まれた空間を再配分。幅員2mの自転車道を新設し、歩道を最大10mに拡幅した。歩道には、芝生広場やウッドデッキを配置。ただ歩くための通路から、人々が滞留しやすい空間へ生まれ変わったのである(写真2)。
リニューアル前の花園町通りは、通行量の減少や空き店舗の増加などの課題を抱えていた。自動車交通量は35年前の約2分の1まで減少。アーケードは暗く、人が歩きたくなるような空間ではなく、老朽化も懸念されていた(写真3)。
松山市は地元との懇談会やワークショップ、社会実験などを繰り返し、車線減少+歩行車空間の拡張という整備方針を打ち出したのだった。