3次元データがあるのなら、コンクリートのはつり作業にもICT施工が使えるのではないか──。社内で上がったこんな発想が、難しい施工条件を克服するための突破口となった。土工で実績のあるマシンコントロール建機を使い、迅速で高精度なはつり施工を実現した。
土工の整地作業などで用いるMC(マシンコントロール)建機を使ったICT施工を、コンクリート構造物のはつり作業に転用できないか。真柄建設は、こんなアイデアを頭首工(農業用取水施設)の改修工事に生かした。工事での成果は国にも認められ、2021年1月に発表された第4回インフラメンテナンス大賞の農林水産大臣賞を受賞した。
改修の対象は、新潟県内を流れる加治川に、40年以上前に設置された頭首工。固定堰(ぜき)や可動堰、導流壁などから成る本体と、取水工や沈砂池、魚道、護床工などの付帯施設で構成する。工期は17年度から18年度にかけて。ただし、営農への影響を避けるために毎年、営農者が作物の収穫を終えた渇水期に施工した。
現況不明のままの当初設計
改修工事を進めるうえで、真柄建設が最も不安視したのが左岸側の固定堰(幅42m、長さ15.6m)だった。当初設計は、建設当時の図面を基に作成されていたが、そもそも、堰の大部分が土砂の下に隠れており、実際の形状が元の図面通りか否か分からない。長年の摩耗で形状が変化している事態も予想された。
同社は当初、固定堰の改修手順を以下のように計画していた。
まずは堰の周囲を鋼矢板で締め切って土砂を撤去。続いてレーザースキャナーで堰を測量する。その後、表面のコンクリートをブレーカーによる人力作業で厚さ7cm分はつる。最後に堰の上に工場製作の超高強度繊維補強コンクリートパネルを設置し、パネルと躯体の隙間にグラウトを充填する(写真1)。
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しかし、現況が想定と大きく異なっていれば、工期遅れやコスト増につながる。
「堰の断面は曲線形状だ。パネルの曲線が合わなければグラウト充填量の増加など、大きな損失につながる。パネル製作の発注前に急いで測量し、現況把握に努めた(写真2、図1)」。真柄建設工事課の越田誠工事長は、当時を振り返ってこう話す。