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 笹子トンネルの天井板崩落事故以降に本格化した道路トンネルの定期点検は、2巡目に入った。「道路トンネル定期点検要領」(図1)は2019年3月、「道路トンネル維持管理便覧」は20年8月に、それぞれ改定された。現場担当者の意見を踏まえ、現場でより使いやすくするためだ。それに加えて、将来の人材不足へ対応した点検支援技術の活用や維持管理記録となる点検調書の充実なども改定の目的だ。

図1■ 変状の要因を見極める
図1■ 変状の要因を見極める
補足1)変状種類は変状として現れる事象であり、変状区分は基本的に変状の要因を区分したものである。従って、ここでの変状区分は必要となる対策の区分とは異なることに注意する必要がある。例えば、材質劣化による巻き厚不足や減少が生じている場合にも、必要に応じて外力への対策が必要となるなど 補足2)変状区分とは、変状現象の要因を3つに区分(外力、材質劣化、漏水)したものをいう。外力とはトンネルの外部から作用する力であり、緩み土圧、偏土圧、地滑りによる土圧、膨張性土圧、水圧、凍土圧などの総称をいう。材質劣化とは使用材料の品質や性能が低下するものであり、コンクリートの中性化、アルカリ骨材反応、鋼材の腐食、凍害、塩害、温度収縮、乾燥収縮などの総称をいう。なお、施工に起因する不具合もこれに含む。漏水とは覆工背面地山などからの水がトンネル坑内に流出することであり、覆工や路面の目地部、ひび割れ箇所などの水流出の総称をいう。なお漏水などによる変状には、冬季におけるつららや側氷が生じる場合も含む(資料:国土交通省道路局「道路トンネル定期点検要領、2019年3月」)
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 しかし、定期点検要領や維持管理便覧に掲載されている診断(対策区分判定)指標を基に判定した結果には、バラツキが見られる。

 今回はひび割れの変状が出た4つの事例から判定区分を考えてみよう(図2)。まず(1)は、打設スパンをまたいで生じている縦断方向のひび割れだ。トンネルの中央区間で、側壁部に発生しており、幅は最大で1.2mm程度だった

図2■ 4つのひび割れを判定
(1)打設スパンをまたいで側壁部に発生している縦断方向のひび割れ
(1)打設スパンをまたいで側壁部に発生している縦断方向のひび割れ
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(2)打設スパン内でアーチ天端部に見える縦断方向のひび割れ
(2)打設スパン内でアーチ天端部に見える縦断方向のひび割れ
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(3)アーチ天端部から側壁にかけて横断方向に生じているひび割れ
(3)アーチ天端部から側壁にかけて横断方向に生じているひび割れ
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(4)側壁下端の横断方向に生じているひび割れ
(4)側壁下端の横断方向に生じているひび割れ
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 続いて(2)は、坑口部で確認された打設スパン内で生じた縦断方向のひび割れだ。幅は1mm程度で、スパン全長にわたり発生している。

 (3)はアーチ天端から側壁にかけて生じている横断方向のひび割れだ。スパン内の中央部に連続的に発生しており、幅は最大で0.5mmだった。定期点検から2年後に、再度ひび割れの箇所を確認すると、幅が広がっていると判明した。

 そして最後の(4)が、側壁下端のインバート付近で横断方向に生じているひび割れだ。

 定期点検要領や維持管理便覧などを基に、写真や損傷イメージから、ひび割れの要因と適切な判定区分を選択肢から選んでほしい。

HINT ここがポイント!

 山岳トンネルの覆工コンクリートでは、様々な変状を点検するケースが多い。ただし同じ変状のように見えても、診断結果が異なることがある。様々な条件を考慮し、1つの変状に対して診断する必要がある。諸基準をそのまま読んだだけで判定できる変状もあるが、これまでの維持管理資料や専門技術の熟練度に加え、基準をよく読まないと判定できない例もある。特にひび割れは点検時の変状だけでなく、施工情報や維持管理記録などに遡って確認し、診断する必要がある。ひび割れは、変状の要因に外力と材質劣化があり、診断が難しいので注意が必要だ。

選択肢
  1. 外力の可能性:IIa、III
  2. 外力の可能性;IIb(計測結果や次回定期点検で進行性を確認後、IIa、IIIなどと判断)
  3. 外力の可能性:I(材質劣化の可能性もあり、見分けるのが難しい)
  4. 材質劣化の可能性:IIbまたはI