グリーンインフラの普及の鍵を握る「自然の多機能性の評価」。最近ではテクノロジーの進化で、これまで難しかった効果測定が可能になりつつある。グリーンインフラの実装を後押しする、「グリーンインフラテック」から目が離せない。
スマホの撮影とAIで生物を特定
生物多様性のデータベース化
「ポケモンGO」の登場によって、外でスマートフォンをかざす人が増えたのは記憶に新しい。そのリアル版ともいえるスマホアプリが最近、人気を博している。京都大学発のベンチャー企業であるバイオーム(京都市)が開発したアプリ「Biome(バイオーム)」だ。一般ユーザー数は28万人を超える。
スマホを使って動物や植物を撮影するだけで、搭載したAI(人工知能)が名前を特定。それが位置情報とともにデータベース化される(図1)。
「生物や自然環境のデジタル化を目指している。特に季節に応じた生物の分布情報を中心にデータベース化したかった」。同社の藤木庄五郎代表取締役はこう話す。
同社の技術のポイントは、国内の全動植物の9万2000種に対応した名前判定AIにある。「画像だけで生物を特定するには限界がある。そこで位置情報と撮影日時を学習させている。生き物を特定するには効果的な情報だ」(藤木代表取締役)
ゲーム感覚で楽しめる仕組みを取り入れている点もバイオームの特徴の1つだ。例えば「ツバメを見つけてみよう」というミッションを出して、見つけて投稿したユーザーには、点数が加算されていく。ユーザーが投稿した「いきものマップ」を見ることも可能だ。
ただ、同社はアプリを開発するだけの会社ではない。「市民の目を使ってデータを集め、解析するのがサービスの全容だ」と藤木代表取締役は説明する。
例えば、投稿情報を基に、全国の生物多様性のホットスポットを明らかにしたことがある。「定性的ではあるが、グリーンインフラの生物多様性の効果の測定などに使えるのではないか」(藤木代表取締役)
企業や行政などと組んで、生物を調査する事例も増えてきた(図2)。2021年7月末には京都産業大学と福山コンサルタント、東邦レオと共同で、バイオームを使った「グリーンインフラDXプロジェクト」を立ち上げた。
「湿った場所に生える植物を探す」といったお題を出し、市民を巻き込んでグリーンインフラに適した場所を調べてもらう。茨城県守谷市内でお題に応える写真を撮って投稿すれば、地域で使えるクーポンなどを還元する実証実験も実施中だ。