成瀬ダムの現場でクワッドアクセルが実現した複数種かつ多数の無人重機の自律運転。運転席にも遠隔監視の場にも操縦者がいなくても複雑な作業をこなせる技術の秘密をここから解説する。まずは、自律運転の必須条件である重機改造のステップを見る。
現場で扱う重機は自律運転できる特別な仕様だが、鹿島が重機自体を製造したわけではない。メーカーが製造した車両に“目”と“腕”を追加して使っている。
目と例えるのは、重機を自動で動かすためのセンシング機能だ。鹿島が最初の開発対象とした振動ローラーを通して具体的な内容を見ていこう(写真1)。目の代わりとして取り付けたのが、GPSアンテナやレーザースキャナー、ジャイロセンサー、アーティキュレート角計測センサーなどだ(写真2、3)。
GPSは言うまでもなく、人工衛星を用いた測位システムだ。クワッドアクセルではRTKと呼ぶ補正の仕組みを取り入れたので、2~5cm程度の誤差で測位できる。
通常、GPSのデータを取得できるのは10分の1秒オーダーだ。しかし、この周期で取得した位置情報だけでは測位間隔が大きく、円滑な制御は難しい。
鹿島が重機の動作制御に必要だと考えたデータのサンプリング周期は100分の1秒。重機のスピードはそれほど速くない。時速10km程度の移動であれば、100分の1秒での移動距離は3cm程度で済む。
GPSから得られるデータ間隔ではカバーできない100分の1秒間隔での位置情報を取るために組み合わせたのが、振動ローラーの姿勢などを把握する「ジャイロセンサー」だ。
振動ローラーに搭載したジャイロセンサーでは、角速度を100分の1秒ごとに計測可能だ。これによって、振動ローラーの傾きなどを細かく把握できる。加えて加速度データも計測しており、これらの情報を基にすれば、GPSでの測位データの間を埋める位置情報を獲得できる。
近年開発が進む自動車の自動運転技術では、正確な位置情報を得るためにGPSとIMU(慣性計測装置)などのデータを組み合わせる例が多い。開発当時は現在市販されているようなIMUの入手が難しく、鹿島は独自のセンサーをあつらえた。
独自のジャイロセンサーは、演算機能を持つ。GPSのデータを取り込み、センサーによる計測データと合わせて、ファームウエア(電子機器内のソフトウエア)で処理。100分の1秒ごとの測位データを得られるようにした。
振動ローラーを稼働させる際の障害物検知には、レーザースキャナーを用いた。役割は2つある。1つは人を含む障害物の検知。人身事故などを防ぐ。もう1つは路面が平たんか否かなどを判断する。