
八千代エンジニヤリングの小川達也氏は、2016年の入社時に道路設計の担当を志望していた。しかし、最初に配属された道路交通部第四課では、「部署名からは想像しにくい」(小川氏)仕事が待ち受けていた。下水道の設計だ。
志望と異なる部署への配属を全く想定していなかったわけではない。道路へのこだわりはあったものの、その他の構造物にも関心を抱いていた。「それにしてもまさか下水道とは思わなかった」(小川氏)
大学や大学院でほとんど学んでいない分野で、果たしてプロの技術者への道を歩めるのかと不安を覚えた。しかも大手建設コンサルタント会社である同社でも、下水道設計の担当者は5人程度しかいなかった。組織改編で新設された都市・地下空間部技術第二課が業務を引き継いだ今も、人数はあまり変わっていない。
同課の足田誠治課長によると、八千代エンジニヤリングは、高度経済成長期には、下水道の担当社員を支店ごとに配置できるほど数多く擁していた。しかし、下水道普及率が上がるにつれて、この分野に若手社員を配属しなくなり、現在の状態に至った。50歳代のベテランが多く、後に続く世代の人材が不足してきたため、小川氏には次代を担う役割を期待されている。
未知の分野の仕事を課された小川氏。「能力不足を恥ずかしがることはない。下水道について何が分からないかをはっきりさせて、上司や先輩にためらわずに質問し、学んでいくしかない」とかえって開き直った。こうした姿勢で技術者としての能力を伸ばしていった。
18年度には千葉県松戸市が発注した下水道の設計を、上司や先輩のバックアップを受けながら初めて主担当として取り組んだ。下水道普及率の高い現代では珍しく新設する下水道の設計で、「若手の教育にぴったりの業務」(足田課長)だった。
小川氏によると、この業務での最も主要な課題は、高い地下水位への対応だった。既存ガス管との離隔を検討するために計画地を試掘すると、わずか1.1mの深さで地下水が出た(写真1)。上司や先輩に教わりながら、釜場排水工法などの対策を盛り込んで設計をまとめた。下水道技術の奥深さを知り、取り組む意欲をさらに高めた。
松戸市は、この設計に基づく松戸第7処理分区汚水準幹線の工事を21年6月に完成させた(写真2)。
様々な構造物の設計を支援
小川氏が発奮して、学生時代の専攻や志望とは異なる下水道に高いモチベーションで取り組めるようになったことには、足田課長らが仕事の重要性を説明し、やりがいを理解させたことが影響している。
足田課長は11年の東日本大震災で被災した宮城県石巻市で下水道を含むライフラインの復旧・復興事業に携わった。まず、その経験談を小川氏に話し、下水道技術者の使命の重さを伝えた。
さらに、「下水道技術者はコンサルタントのコンサルタントでもある」と説いた。自社が設計を受託した道路や河川などの様々な構造物の計画地に、既存の下水道が埋設されていることがある。その場合の対策の助言が、下水道部門の知られざる、しかし重要な任務の1つだ。
同社のような大手建設コンサルタント会社では分業化が進み、各部門の技術者が専門性を高めている一方で、専門外の分野には精通していない場合もある。
「既存の下水道は自然流下方式が基本で、切り替えが必要になっても勾配の向きを変えるのは難しい。そうした基礎事項でも下水道の技術者が助言する必要がある」(足田課長)
小川氏はそれを知り、「技術者として今後、いろいろな分野の構造物に携われるのは楽しい」と、モチベーションが大いに上がった。
19年7月から所属する都市・地下空間部技術第二課では下水道に加え、電線共同溝の設計も担うようになり、さらに士気を高めている。国や自治体が推進する無電柱化の要となる成長分野だ。小川氏は現在、奈良県発注の電線共同溝の設計に取り組んでいる。