少子高齢化で若手の入職者の確保が難しくなるなか、技能者の処遇改善は喫緊の課題だ。国と建設業団体が先頭に立って、技能者の賃金水準の向上に向けた取り組みを本格化する。この動きに呼応して、技能者の賃金を引き上げる企業も増えてきた。
建設技能者の賃金の2%上昇を目指す──。国土交通省と建設業4団体が2021年3月に開いた意見交換会で掲げた21年度の目標だ。
厚生労働省の調査によると、13~19年の建設業技能者(男性)の賃金は、年平均で2.7%増えた(図1)。11年に発生した東日本大震災の復興事業や東京五輪の関連事業が追い風となって、建設業の業績は比較的好調だった。この状況が今後も続けば、2%の上昇は決して難しい目標ではないだろう。
しかし、復興や五輪関連の事業はほぼ終わった。新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって、景気には陰りが見えている。そういった状況下での2%達成は、容易ではなくなった。技能者の処遇改善に取り組む強い覚悟が感じ取れる。
2%上昇という目標は、国からの働きかけだけでなく、発注者や元請け、下請けなどが一体となった総力戦で臨まなければ達成できない。建設業は、高齢の技能者が退職していく一方で、若い入職者の獲得に苦戦している。賃金引き上げなどで処遇を改善しなければ、先細りが続くのは目に見えている。
厚労省の調査を基に、国交省が建設業と製造業の男性技能者の年間賃金を比較したところ、13~19年の年平均増加率は建設業の方が上回っていた。それでもまだ、19年時点で年間賃金は製造業の方が建設業より3.5%も高い。
設定した賃上げ目標は、製造業をはじめとする他産業との間での人材確保に向けた競争を想定している。25年までに製造業の賃金に追いつくには、建設業は年平均で2.2%引き上げなければならない計算だ。
21年3月の意見交換会では、公共工事の事業量確保や適切な賃金支払いの要請などを申し合わせ事項としてまとめた。これを受けて国交省は4月2日、日本建設業連合会など建設業団体に対して、賃金上昇の取り組みの推進を会員企業へ周知するよう呼び掛けた(図2)。