2021年7月に静岡県熱海市で発生した土石流など、民有地の盛り土や斜面が崩れて人に危害を及ぼす惨事が目立つ。基本は民間の問題だが、開発許可の申請確認や道路の安全管理を担う行政の責任も問われかねない。

崩れる民有地
目次
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「危険な盛り土」抽出へ
PROLOGUE
26人の犠牲者を出す大惨事となった静岡県熱海市の土石流。崩落の起点となったのは民有地の盛り土だ。この盛り土では、県の定める土採取等規制条例に違反して施工していた恐れなど様々な問題が浮き彫りになり、国は全国の民有地で盛り土の一斉点検を始めた。
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施工者以外も法的責任を負う恐れ
ある造成地が崩れて災害が生じたとき、責任の主体には現在の土地所有者、造成工事の発注者(当時の土地所有者で行政に開発許可を申請した事業者)、造成工事会社、開発許可を与えた行政が挙げられる。ここでは、盛り土に不適切な施工があった際の法的責任を考えてみたい。
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「是正工事は問題なし」でも崩れた
PART1
熱海土石流から約1カ月後、大津市の山地から、大雨の影響で盛り土が崩れて道路に流れ出た。地元の測量設計会社が無断で造成した後、市の命令を受けて是正工事を済ませた盛り土だった。市は「想定外の豪雨」で崩れたと見解を述べている。
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“太陽光”の造成地で続く土砂流出
PART2
熊本県南関町で、太陽光発電施設の造成工事中に土砂が流出した。FIT制度の創設以降、太陽光発電施設の敷地内からの土砂流出による事故が増えている。国はガイドラインや省令で防止策の強化を急ぐ。
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「安全に通す」道路管理者の責務は
PART3
2020年2月に神奈川県逗子市で起こったマンションの斜面崩壊は、2つの民事訴訟に発展した。管理組合や区分所有者、設計・監理者、売り主などがどの程度責任を問われるのか注目を集めている。一方で、道路を安全に通す義務がある道路管理者の責任も無視できない。逗子市は民有地の点検体制の強化を図る。
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民有地の地盤を巡る5つの問題
裁判所で調停委員や専門委員として、地盤や地下水を巡るトラブル解決に関わってきた地盤品質判定士会の中村裕昭理事に、民有地の地盤災害防止の計画・設計で気を付けるべきポイントを寄稿してもらった。
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防災テックで民有地対策に活路
PART4
道路構造物の点検もままならない管理者が、民有地の斜面などの点検をできるのか──。人も予算も限られる中で、大きな期待が集まるのが「防災テック」だ。レーザー測量地形図や人工衛星のSAR画像などを駆使した新手法が導入されつつある。
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私有財産への助成に悩む行政
EPILOGUE
民有地の防災対策は所有者の責任で実施することは言うまでもない。ただし、斜面での工事となると膨大な費用を要するため、所有者はなかなか踏み切れない。私有財産へ行政側が資金を際限なく投入できるわけでもない。打開策はどこにあるのか。