2020年2月に神奈川県逗子市で起こったマンションの斜面崩壊は、2つの民事訴訟に発展した。管理組合や区分所有者、設計・監理者、売り主などがどの程度責任を問われるのか注目を集めている。一方で、道路を安全に通す義務がある道路管理者の責任も無視できない。逗子市は民有地の点検体制の強化を図る。
神奈川県逗子市にある分譲マンション「ライオンズグローベル逗子の丘」で、敷地内の斜面が崩壊し、市道を歩いていた女子高生が土砂に巻き込まれて亡くなった──。あの痛ましい事故から1年半以上がたつ。崩壊した法面の復旧工事が終わり、通行規制も解除された(写真1)。
現地は、約8mの高さで擁壁がそびえ立ち、その上に60度と急勾配の法面がある(図1)。国土交通省国土技術政策総合研究所の調査によると、崩落の主因は「乾湿、低温などによる風化」だ。風化した凝灰岩が未風化の岩の上を滑って崩落したと結論づけた。
事故を巡っては、マンションの管理会社である大京アステージ(東京都渋谷区)が事故後に神奈川県横須賀土木事務所を訪れ、「斜面の上部のひび割れを管理人が事前に見つけていた」と説明。事故を防げた可能性があったとして、責任を追及する動きが本格化している。
女子高生の遺族は2020年6月、管理会社やマンションの区分所有者を、業務上過失致死や過失致死の疑いで刑事告訴した。さらに遺族側は21年2月5日、区分所有者と管理組合、管理会社、同社の従業員を相手取り、横浜地方裁判所に損害賠償請求の訴訟を提起した。提訴時点の請求額は計約9400万円だ(図2)。
原告は訴状で、「ある日突然、風化により土砂が崩落したのだから、造成地として通常有すべき安全性を欠いていた。設置または保存の瑕疵(かし)が存在する」と主張。区分所有者は民法717条で定める「土地工作物責任」を負うとした。土地工作物とは、土地の上に人工的に設置された物を指す。過去には宅地造成地が土地の工作物に当たるとした裁判例がある。
原告代理人である南竹要弁護士は、「管理組合や区分所有者、管理会社などの関係者のうち、誰にどれだけ責任があるのかを裁判所が認定する初のケースとなる」と話す。