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道路構造物の点検もままならない管理者が、民有地の斜面などの点検をできるのか──。人も予算も限られる中で、大きな期待が集まるのが「防災テック」だ。レーザー測量地形図や人工衛星のSAR画像などを駆使した新手法が導入されつつある。

 国土交通省が2021年10月25日に開いた社会資本整備審議会の第15回道路技術小委員会で、今後の道路防災点検を大きく変える内容が議論された。目視では把握できない災害リスクに対して、デジタル技術を活用し、高精度で広範囲に災害リスクを抽出するというものだ。

 近年、道路区域外からの大規模な土砂崩落が多発している。国交省は18年に航空レーザー測量によるデータの取得に乗り出した。航空機に搭載したスキャナーから地上にレーザー光を照射。地上からの反射光がもたらす時間差で得られる地上までの距離と航空機の位置情報から、地上の標高や形状を精密に調べる。

 この測量で得られた点群データを基に作成したレーザー測量地形図を使い、道路沿いの斜面や盛り土などのうち、災害リスクの高い箇所を見抜く(図1)。

図1■ 空中写真よりも微地形を判読できる
図1■ 空中写真よりも微地形を判読できる
国土交通省の「三次元点群データを活用した道路斜面災害リスク箇所の抽出要領(案)」から抜粋
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 「現在は2万5000分の1の地形図や空中写真から危険地を判読する手法が一般的で、高度な専門技能を要していた」。国交省道路局道路防災対策室の松本章課長補佐は、こう話す。

 加えて、レーザー測量地形図から地表面の凹凸など細かな形状を分かりやすく表現するために処理した「微地形表現図」を使えば、道路沿いからの目視点検では見えなかった落石発生源となる露岩部なども分かる(図2)。

図2■ 微地形表現図では落石発生源も抽出
図2■ 微地形表現図では落石発生源も抽出
微地形表現図では斜面上の細かな地形を視覚的に分かりやすく表現できる。国土交通省の「三次元点群データを活用した道路斜面災害リスク箇所の抽出要領(案)」から抜粋
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 第15回の道路技術小委員会では、「三次元点群データを活用した道路斜面災害リスク箇所の抽出要領(案)」を提示した。道路防災点検で、点検箇所を絞り込むまでの標準的な手法となる基準だ。災害リスク箇所の抽出に航空レーザー測量の結果や微地形表現図を用いることを基本とし、基となる点群データは1m2当たり4点以上の高精度を推奨している。

 現在、国は「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」で、直轄だけでなく要望のある地方道も含めて、緊急輸送道路の3万3000カ所を抽出して、法面・盛り土の防災対策を進めている。19年度時点で整備率は55%。25年度には同73%を目指す。