2022年9月に発生した浜松市天竜区緑恵台の土砂崩れは、違法な盛り土が原因とされる。この盛り土は、全国の総点検や静岡県で強化した規制の対象に含まれていなかった。現場には過去に何度も盛り土が無断搬入されていたものの、危険性に気付けなかった。
東海地方に大雨をもたらした2022年9月の台風15号。浜松市天竜区緑恵台で発生した斜面崩壊では、住宅3棟が全半壊して住民3人が負傷した(資料1)。
浜松市は、違法な盛り土が原因で斜面が崩れたとみる。これまでの調査で、緑恵台の宅地が造成された後、新たに造られた盛り土が崩れたことが分かっている。盛り土の総量8100m3のうち3400m3が崩落した。
崩壊のメカニズムは以下の通りだ(資料2)。盛り土は転圧しておらず、内部には空隙が多かった。排水施設はなく、雨水などを吸収してため込みやすい状態だった。
台風15号の大雨で盛り土内の水位が上昇。大量の水を含んで重くなった土砂が、斜面の下端部で小規模崩壊を起こした。上部の盛り土も連鎖的に崩れた結果、崩壊の規模が大きくなった。
なぜ災害が発生する前に、危険な盛り土に気付けなかったのか。
21年7月に静岡県熱海市で発生した土石流災害を受け、全国で盛り土の総点検を実施した。浜松市内では233カ所が対象だったが、緑恵台の崩壊現場は含まれていなかった。
自治体への無許可・無届けの盛り土でも、高さが5m以上あれば総点検の対象だった。浜松市都市整備部の担当者は「緑恵台の盛り土は森林法などに基づく届け出がなく、規模が小さかったので総点検の対象にならなかった」と説明する。
とはいえ、市が緑恵台の盛り土の危険性に気付ける機会は、総点検に限らず過去に何度もあった(資料3)。市が開示した資料によると、コンクリート片など産業廃棄物が混入した土砂の無断搬入を14年10月に発見。産業廃棄物対策課は、土砂搬入の中止と産廃の撤去を土地所有者と運搬会社に指導した。
他にも、17年11月と18年2月には、北部都市整備事務所が隣地の土地所有者から「土砂が自分の土地に越境している」との相談を受けた。現場周辺は、建築協定により区画形質を変更できない規定があったものの、盛り土の造成場所は規定適用外の緑地区画だった(資料4)。市は民事の問題に対応できないとして、具体的な行動を起こさなかった。
天竜土木整備事務所は21年12月、土地所有者の親族に盛り土の面積や土量を確認するよう要請していた。しかし連絡がなく、市の対応は途切れた。