全3299文字

2022年3月の福島県沖地震で発生した新幹線のラーメン橋台のせん断破壊を巡り、新たな損傷リスクが判明した。これまで同様の橋台の6割以上が耐震補強の優先度を低く判定され、現行の補強計画に入っていなかった。国土交通省はJR各社に対し、同様の橋台を25年度までに前倒しで補強するよう要請した。

 地震による新たな損傷リスクを浮き彫りにしたのが、東北新幹線の福島─白石蔵王間にある「第1小坂街道架道橋」(福島県国見町)だ。県道46号の両側にそれぞれ4本の柱を持つコンクリート造のラーメン橋台が立ち、その上に幅約10m、長さ約40mのプレストレストコンクリート(PC)の桁が架かる。PC桁の重さはおよそ1400tに及ぶ。

 2022年3月16日に起こった福島県沖を震源とするマグニチュード(M)7.4の地震を受け、福島方面の橋台の柱でせん断破壊が発生。柱が約40cm沈下し、軌道に変位が生じた(資料12)。

資料1■ 2022年3月の福島県沖地震でせん断破壊が生じた東北新幹線「第1小坂街道架道橋」の柱(写真:村上 昭浩)
資料1■ 2022年3月の福島県沖地震でせん断破壊が生じた東北新幹線「第1小坂街道架道橋」の柱(写真:村上 昭浩)
[画像のクリックで拡大表示]
資料2■ せん断破壊でラーメン橋台の柱が40cm沈下
資料2■ せん断破壊でラーメン橋台の柱が40cm沈下
柱が沈下した東北新幹線の高架橋の橋台。長さ約40m、重さ約1400tのPC桁を支えていた(出所:国土交通省の資料を基に日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 この地震を受け、国土交通省は22年5月に専門家でつくる「新幹線の地震対策に関する検証委員会」(委員長:須田義大・東京大学生産技術研究所教授)を設置。(1)構造物などの耐震対策(2)早期地震検知システム(3)列車の脱線・逸脱防止──の3点について検証を進めている。そのうち耐震対策に関して、22年12月14日の第2回会合で中間取りまとめを公表した。

 耐震補強が終わった箇所には大きな被害が生じなかったことから、中間取りまとめでは現行の耐震基準は妥当だと結論付けている。一方で、高架橋の耐震補強計画については、一部見直しを求めた。

 その判断材料となったのが、第1小坂街道架道橋の被害だ。被害の検証によって得られた新たな知見に基づき、この架道橋と同様の構造形式や荷重条件を持つ橋台の柱は、優先的に耐震補強すべきだと判断した。国交省はこれを受け、同様の橋台の柱については、現行の計画よりも耐震補強を前倒しして、25年度までに終えるようJR各社に要請した。

 JR東日本は28年度まで、JR西日本は27年度までに現行計画の耐震補強を終える予定だった(資料3)。JR東海は08年度までにほぼ完了した。他のJR各社の新幹線は比較的新しいので補強を要する高架橋はない。

資料3■ 阪神大震災後の緊急耐震補強は既に完了
資料3■ 阪神大震災後の緊急耐震補強は既に完了
新幹線高架橋の耐震補強の状況(2022年3月末時点)。本数はいずれも概数。緊急耐震補強は10年度までに完了(出所:国土交通省の資料を基に日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 前倒しの対象となった橋台の柱は、JR東日本の東北新幹線と上越新幹線で計約970本、JR西日本の山陽新幹線で約170本ある。そのうち、現行の耐震補強計画に入っているのは両社合わせて約430本だ。6割を超える残り約710本は現行計画外だった。つまり、これらは現行計画の作成時に、優先度が高くないと判断されていた(資料4)。

資料4■ 対象の柱を25年度末までに前倒しで補強
資料4■ 対象の柱を25年度末までに前倒しで補強
補強の前倒し対象となった「重い桁荷重を支える柱」の位置付け。本数と年度は上段がJR東日本の東北新幹線と上越新幹線、下段がJR西日本の山陽新幹線(出所:国土交通省の資料を基に日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]