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宮城県気仙沼市の気仙沼漁港で、防波堤が前触れもなく一夜で消失した「事件」から半年がたつ。日経クロステックが独自に入手した資料などで、海中の状況が明らかになった。鋼管杭の溶接部で「選択腐食」が進行し、らせん状に裂ける奇妙な現象が起こっていた。

 気仙沼漁港で2021年11月2日午前6時50分ごろ、防波堤が海上から消えていることに地元の漁業関係者が気づき、漁港を管理する宮城県に通報した(資料1)。前日の午後5時ごろまで異変のない状態を地元の住民が確認している。防波堤が一夜で倒壊し、海中に沈んでいた。

資料1■ 気仙沼漁港の小々汐防波堤。50.3mの区間が倒壊して海上から消えた(写真:宮城県)
資料1■ 気仙沼漁港の小々汐防波堤。50.3mの区間が倒壊して海上から消えた(写真:宮城県)
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 倒壊したのは、岸から81mにわたって延びる小々汐(こごしお)防波堤のうち、1978年に完成した先端の50.3mの区間だ。この区間は、水中に立つ鋼管杭の前面にプレキャストコンクリート(PCa)版を取り付けたカーテン式防波堤になっている(資料2)。PCa版の下を海水が通り抜けて港内の水質を保全できるので、養殖漁場などで採用例が多い。

資料2■ PCa版の下を海水が通り抜ける構造
資料2■ PCa版の下を海水が通り抜ける構造
カーテン式防波堤区間の標準断面図。宮城県の資料を基に日経クロステックが作成
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 鋼管杭は直径70cmで、厚さ9mmの鋼板をらせん状に巻いて溶接した構造だ。港外側と港内側の2列にそれぞれ15本並んでいる。鋼管杭の頂部には、幅4m、高さ1.8~3mの上部工コンクリートが載る。当初の高さは1.3~2.15mだったが、2011年の東日本大震災による沈下を受け、17年にかさ上げした。

 岸から30.7mの区間は、コンクリートブロックを積み重ねた重力式防波堤だ。カーテン式防波堤の1年前の1977年に完成した。この区間に変状はなかった。

 県が事故後に水中を調査したところ、カーテン式防波堤全体が港外側に倒れているのを確認した。らせん状の溶接部で鋼管が裂け、折れ曲がっていた(資料3)。

資料3■ らせん状の溶接部が破断
資料3■ らせん状の溶接部が破断
倒壊した防波堤の水中写真と撮影箇所。カッコ内の数字は撮影方向。鋼管杭が、らせん状の溶接部で裂け、折れ曲がっていた。宮城県の資料を基に日経クロステックが作成
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