全1957文字

愛知県豊田市の取水施設「明治用水頭首工」で2022年5月に発生した大規模な漏水事故。ボーリング調査などの結果、堰体やエプロンの下に高さ最大3m程度の空洞を広範囲で確認した。止水矢板のない左岸端部が弱点となり、パイピング現象が起こっていた。

 「護岸側で止水矢板が不連続になっていた箇所が弱点となり、水みちが発生していた」

 明治用水頭首工復旧対策検討委員会の委員長を務める石黒覚・三重大学名誉教授は、2022年7月26日に開かれた第3回会合の後の会見で、漏水発生の要因についてこう語った。

 明治用水頭首工は、愛知県豊田市内を流れる矢作川から工業用水や農業用水を取り込むための施設だ。1958年に完成した。堰(せき)で川をせき止めて上流側の水位を上げ、取水口から水を引き込む。ところが22年5月、パイピング現象によって堰の下に水みちができ、大規模な漏水が発生。上流側の水位が下がり、取水できなくなってしまった(資料12)。

資料1■ 左岸上流側から見た明治用水頭首工。2022年6月撮影。水の流入を防ぐため、土のうの設置などを進めていた(写真:日経コンストラクション)
資料1■ 左岸上流側から見た明治用水頭首工。2022年6月撮影。水の流入を防ぐため、土のうの設置などを進めていた(写真:日経コンストラクション)
[画像のクリックで拡大表示]
資料2■ 2022年5月17日午前9時30分ごろの左岸下流側の様子。河床から水が噴き出している(写真:農林水産省)
資料2■ 2022年5月17日午前9時30分ごろの左岸下流側の様子。河床から水が噴き出している(写真:農林水産省)
[画像のクリックで拡大表示]

 一時は近隣の工場や農地への水の供給が途絶え、大きな影響が出た。200台を超える仮設ポンプの設置や、上流側の水位を部分的に上げる応急対策で、現在は必要な取水量を確保できている。

 頭首工を所管する農林水産省は、ボーリング調査などで水みちの特定を進めるとともに、専門家による委員会で対策を議論。7月26日の会合で、これまでの調査結果を報告した。

 パイピングが起こった左岸側で実施したボーリング調査の結果、P1堰柱の下に幅約10m、高さ1~2m程度の空洞が確認された(資料34)。コンクリート造の堰体の直下にはP1―P3間辺りに厚さ2~3mの砂層が分布している。その砂層が流れ出し、空洞が生じたとみられる。

資料3■ P1堰柱の下に空洞
資料3■ P1堰柱の下に空洞
左岸側の地質断面図。P1―P3間の堰体下部に厚さ2~3m、N値3~10相当の砂層が分布。P1堰柱下部の空洞は、砂層がパイピングによって流されて生じたと想定される。空洞内には、流水で生じた堆積物とみられる土砂がある。農林水産省の資料を基に日経コンストラクションが作成
[画像のクリックで拡大表示]
資料4■ 下流エプロンの下に空洞を確認
資料4■ 下流エプロンの下に空洞を確認
P1堰柱付近の横断図。農林水産省の資料を基に日経コンストラクションが作成
[画像のクリックで拡大表示]