完成から24年でローラー支承が破損した熊本県天草市の牛深ハイヤ大橋。事故後の調査で、牛深港の海上に優美な曲線を描く独特な形状が災いしたことが分かった。ローラーが動かない橋軸直角方向に無理な力が働き、疲労破壊につながったとみられる。
「橋の方から金属同士がぶつかるようなカーンという音が15~20分おきに聞こえてくる」
牛深ハイヤ大橋の北端付近にある熊本県天草市の出先事務所の職員から、橋を管理する県に通報があったのは2021年8月23日のことだ。音が聞こえるというP6橋脚上を確認すると、ローラー支承の破損が見つかった。他の橋脚の支承でも、ローラーを挟む支圧板が砕けていたり、ローラー脇にあるピニオン(歯車)の取り付け軸が破断したりしていた。
牛深ハイヤ大橋は、天草市の下島の南端にある牛深港に架かる臨港連絡橋だ。大きな弧を描く本線部と、その途中で下須島に連絡するループ部で構成する(資料1、2)。本線部のうち、延長883mの海上部で支承が破損した。
海上部は7径間連続鋼床版曲線箱桁橋で、1997年に完成した。熊本アートポリス事業の一環として、世界的な建築家のレンゾ・ピアノ氏が設計。当時の大手建設コンサルタント会社だったマエダ(99年に倒産)も設計者に名を連ねている。
牛深ハイヤ大橋は、優れたデザインが評価され、98年に土木学会田中賞やくまもと景観賞を受賞した。
熊本県のホームページでは、「風除板と底面の曲線により、橋桁5mの高さは3分割され連続する光と影のリズムの形象となって、薄く細やかで表現豊かな曲線として海上の19mの空を横切る」と紹介している。
ところが、その独特な線形や形状が災いした。FEM解析の結果、想定外の力が支承にかかっていたことが判明したのだ。
県は専門家による技術検討委員会(委員長:松村政秀・熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター教授)を設置。損傷原因の究明や恒久対策の検討を進めてきた。2022年7月12日に開いた第2回会合で、これまでの調査や解析の結果を報告した。