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7年前に関東・東北豪雨で起こった鬼怒川の氾濫を巡り、国の管理責任を認める異例の判決が出た。被災した住民側は、越水箇所の「自然堤防」が民間事業者によって削られていたことを問題視。自然堤防の機能を守るために河川区域に指定することを怠ったとして、国が一部敗訴した。

 2015年9月の豪雨で茨城県常総市を流れる鬼怒川が氾濫したのは河川管理の不備が原因だとして、被害を受けた住民ら約30人が国に約3億6000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が22年7月22日、水戸地裁であった(資料1)。裁判所は一部の地区で国の責任を認め、原告のうち9人に計約3900万円支払うよう命じた。水害の発生で国の管理責任が認められるのは極めて異例だ。8月4日に住民側と国の双方が控訴した。

資料1■ 太陽光パネルのあった箇所から越水した茨城県常総市の若宮戸地区。自然堤防の掘削箇所に大型土のうを設置していたが、越水を防げなかった(写真:国土交通省)
資料1■ 太陽光パネルのあった箇所から越水した茨城県常総市の若宮戸地区。自然堤防の掘削箇所に大型土のうを設置していたが、越水を防げなかった(写真:国土交通省)
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 争点となった氾濫場所は左岸の2カ所。川沿いにあった砂質土の丘から越水した若宮戸地区と、堤防が決壊した上三坂地区だ(資料2)。

資料2■ 鬼怒川の左岸で越水・決壊
資料2■ 鬼怒川の左岸で越水・決壊
越水・決壊箇所の位置図。国土交通省の資料を基に日経コンストラクションが作成
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 若宮戸地区では、堤防の役割を果たしていた砂質土の丘を河川区域に指定しなかったことが、河川管理の瑕疵(かし)に当たるかどうかが問われた。上三坂地区については、堤防整備を他の地区よりも後回しにしたとして、鬼怒川の改修計画が格別不合理といえるかが問題となった(資料3)。

資料3■ 河川区域の指定に関して国が敗訴
資料3■ 河川区域の指定に関して国が敗訴
裁判の主な争点と裁判所の判断。裁判資料を基に日経コンストラクションが作成
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 判決では、若宮戸地区で国の管理責任を認める一方で、上三坂地区については住民側の訴えを退けた。

 河川の氾濫を巡る住民訴訟ではこれまで、整備計画が格別不合理でない限り河川管理者は賠償責任を負わないとされてきた。鬼怒川の訴訟でも、河川整備計画の代わりとなる改修計画について「格別不合理とはいえない」と判断された。この点では、従来の判断を踏襲した判決だ。整備計画の合理性という争点は、国にとって「勝てる土俵」といえる。

 一方で、国の「勝てる土俵」とは異なる観点で争われたのが若宮戸地区だ。裁判資料によると、国は若宮戸地区についても、上三坂地区と同じ土俵に持ち込もうとしているのがうかがえる。