飛島建設などは電波の届かないトンネル掘削現場で実績のある通信技術を応用し、地下の大規模な陽子加速器施設に防災システムを導入した。作業員を最適な避難経路へとリモートで誘導するとともに、平時は現場支援を後押しする。建設現場で培った防災システムが活躍の場を広げている。
茨城県東海村にあるJ-PARCセンター。大強度の陽子ビームを衝突させて、素粒子や原子核などの研究に取り組む。陽子を緩やかな円軌道上で繰り返し加速させるために、敷地の地下には直径約500mの円を描くように掘られたメインリング(MR)加速器トンネルがある(資料1、2)。
トンネル内部はどの場所も内観が似通っているため、自分がどこを歩いているのかが分からなくなる。地下にいるため、GNSS(全球測位衛星システム)は使えない。坑内では配管を流れる冷却水の音が常に鳴り、アナウンスも聞き取りにくい。
そんな地下施設で防災システムとして使われたのが、電波の届かないトンネル現場で培った位置管理情報システムだ。飛島建設とJ-PARCセンター、綜合警備保障(ALSOK)、関西大学総合情報学部の田頭研究室が共同で開発。地下通路にいる作業員の位置を管理者が遠隔地で把握しながら、チャットを使って意思疎通できる。
2019年夏にシステムを導入して以降、改良を重ねてきた。22年3月に、運用現場を報道陣に公開した。
システムは、閉域ネットワークでサーバーと接続した中央制御棟のコンピューターと加速器に設置した無線LANアクセスポイント、専用のスマートフォン、スマホのアプリで構成する(資料3)。
作業員の位置は、アクセスポイントと作業員に持たせたスマホとの接続状況を基に、複数あるアクセスポイントのどれに近いかを判別して特定する。通路の天井部に、無線LANのアクセスポイントを約50mおきに30台設置(資料4)。個々の作業員の作業エリアが50m単位で分かる。
施設内で働く作業員の位置がひと目で分かる上、チャット機能を使ってテキストメッセージや画像を送受信できる(資料5、6)。扱いやすさを重視し、「了解」などの意味が伝わるスタンプも用意した。
運転中の加速器は放射線を発する。無線LANのアクセスポイントの故障を防ぐために、加速器の運転時は通信システムの電源が自動で切れる仕組みを採用した。加速器の停止時には自動で電源をオンにして、通信環境をスムーズに回復させるようにした。