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昼夜、天候を問わず広範囲で地表の変化を把握できる合成開口レーダー(SAR)。SARを搭載した人工衛星で、従来なかったサービスを提供し、防災市場を拡大する動きが盛んだ。土砂災害の予兆を把握して、事前の対策を講じるケースも出てきた。

 電波を地表に発射し、反射した電波を検出して画像化するSAR(資料1)。光学衛星と異なり、雲の下にある地表の様子を観測できる特徴がある。SARを搭載した小型の人工衛星の開発・運用や、得られたデータを活用したソリューションの提供などを担うのが、スタートアップ企業のSynspective(シンスペクティブ、東京都江東区)だ。

資料1■ シンスペクティブが初めて打ち上げた小型SAR衛星「StriX-α」による撮像データ。東京都湾岸エリア。2021年4月に撮像(資料:Synspective)
資料1■ シンスペクティブが初めて打ち上げた小型SAR衛星「StriX-α」による撮像データ。東京都湾岸エリア。2021年4月に撮像(資料:Synspective)
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 2022年3月には自社で2機目となるSAR衛星の打ち上げに成功(資料2)。撮像の頻度が上がり、サービスの向上が期待されている。

資料2■ 2022年3月に打ち上げた小型SAR衛星「StriX-β」(写真:Synspective)
資料2■ 2022年3月に打ち上げた小型SAR衛星「StriX-β」(写真:Synspective)
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 SARは軍事目的で普及した。主な使い道として不審な船や基地、建造物の監視などがある。備蓄する石油の量と連動して上下する石油タンクの蓋を監視することで、マーケティングの予測などにも使われている。

 他方、建設業界では防災に特化した使い方を模索している。例えば、シンスペクティブが提供する地盤変動モニタリングサービス(LDM)。独自の解析技術で、目視では分からない地滑りや地盤沈下の変動量を面的にかつ、時系列で表示する。

 最近では工事現場などで建設会社が陥没などのリスク対策として導入する例も増えている。事前に予兆をつかめるため、早期に対策を講じることができる(資料3)。21年度には、福岡市が道路の維持管理の実証実験でLDMを活用した。

資料3■ 陥没可能性エリアを特定
資料3■ 陥没可能性エリアを特定
地盤変動モニタリングサービスのイメージ(資料:Synspective)
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 他にも浸水被害モニタリングサービス(FDA)がある。浸水被害の把握によって、住民への通知の他、損保会社による水害リスクの査定などに使った実績がある。

 21年10月にはパシフィックコンサルタンツと防災分野におけるSAR衛星のデータ活用に向けて業務提携で合意。新たな防災・減災サービスの提供を目指している。