「当社から国総研(国土交通省国土技術政策総合研究所)に出向したのは私が初めてだと聞いた」。オリエンタルコンサルタンツ関東支社河川砂防・港湾部の錦織勇人氏(33)は、そう話す。
2014年に入社した錦織氏は、4年目の17年に国総研への出向を会社に願い出て、翌18年に実現した。それまでの同社の技術者にはないキャリアだ。当時は現在と同じ部署で港湾構造物の設計を手掛けていた。
入社時から錦織氏を見続ける同社執行役員の中尾毅流域管理・保全事業部長兼防災事業部長は、当時のことを次のように振り返る。
「本来ならば技術士資格を取得して、実力を付けてから出向しないと苦労することが目に見えたので心配だった。しかし、本人は出向して、かつ技術士も取得して戻ってくると言う。私たちが普通に考える数段上のことを考えていた」
それまで前例がなかった国総研への出向を希望したのにはわけがある。入社して建設コンサルタントの仕事をこなすうちに、ある違和感を覚えるようになっていたのだ。
学生時代、錦織氏は「建設コンサルタントは自らの思い通りに設計している」と考えていた。しかし実際には基準があり、それを逸脱しないように設計する。その基準の成り立ちや作成者の考え方を十分に理解せず設計することに、すっきりとしない気持ちがあったのだ。
主担当として設計に携わった横浜市発注の新港ふ頭9号岸壁では、もどかしさを感じる経験もあった。複雑な構造形式のジャケット式桟橋を発注者に提案。最終的に実現したが、前例が少なく、すぐには了承を得られなかった(資料1)。
だからこそ、港湾構造物の基準を作成している国総研で、その成り立ちや考え方を学びたいと考えた。