北海道美唄市にある建設会社の岸本組はM&Aで構築したグループ内で、元請け会社と下請け会社の弱みを互いに補っている。人材や資機材を融通し合う単価を統一して価格交渉の手間を省き、現場の運営を効率化。互いの調達網を共有してコストを抑え、グループ全体で成長を図る。
岸本組では月に一度、経営幹部や管理部門のメンバーらが本社の一角に設けた「DXルーム」に集う。同社と資本関係を結ぶ丸庭佐藤建設(北海道三笠市)、キース(札幌市、2021年まで社名は金山建設)、東亜工業(同市)とで、オンライン会議を実施するためだ。大型モニターに工事現場の映像を流し、安全パトロールの結果や工事の進捗、利益率について1時間ほど、議論を重ねる(資料1)。
会議ではグループ各社が抱える仕事の量に基づいて、余裕のある人材や資機材を各社の施工現場に融通していく。例えば、グループ内で下請け工事を手掛ける会社の仕事に空きが出れば、付き合いのある外部の元請け会社を紹介する。
札幌市周辺では積雪を避けるために、5月の大型連休明けから10月までに工事が集中する。各工事の進捗の違いによって、繁忙期の終わりの10~11月に繁閑の差が生じやすい。
19年に岸本組が国土交通省北海道開発局から受注した河川工事では、現場が同社の拠点から遠かったために工事用道路の造成など土工事を手掛ける下請け会社の確保が難航。グループ傘下の丸庭佐藤建設とキースに応援を要請した(資料2)。提供を受けた人工(にんく)数は1083人・日に及ぶ。以後年4~6件の工事で、各社で人材を融通し合っている。
グループ企業の本社同士は最大で50km以上離れており、応援に出向く現場によっては移動コストがかさむ。時期によって各社の手元の余力も変動する。だが、人材や資機材の融通をスムーズに進めるために、あえて支払い単価のルールをグループ内で決めて価格交渉の手間を省いた。余裕があれば助け合う仕組みとし、現場の稼働効率を高めている(資料3)。
グループ連携の利点は他にもある。各社が持つ調達網を共有して、資機材だけでなく事務用品やIT(情報技術)機器の仕入れコストを抑えた。地方銀行からの各社の借り入れ金利は、最も低い岸本組と同じ水準だ。