現場で打設されずに返ってきた残コン・戻りコンを巡る問題は昔からあったものの、いまだに解決できていない。各地区の生コンクリート協同組合は戻りコンの有償化を始めるなど対策を講じるも、状況は一向に好転しない。生コン会社と建設会社の間にある問題意識の差をどう埋めるか。闇は深い。
2022年2月、川崎市の小島建材店がアジテーター車から全く荷下ろしせずに返品された「戻りコン」を不正に再利用していた事実が発覚した(資料1)。同社は新たに製造した生コンクリートに戻りコンを混ぜ、日本産業規格(JIS)製品として別の現場に出荷していたのだ。
小島建材店にヒアリング調査を実施した川崎市建築指導課によると、戻りコンを不正利用した要因について同社は「1月上旬の降雪の影響で、出荷先の現場のコンクリート打設作業が急きょ中止になって戻りコンが出たから」などと説明している。
「小島建材店の事例は氷山の一角だ」。ある生コン会社の社長はこう明かす。一昔前に比べると残コンや戻りコンの不正利用は減ったといわれるが、水面下でいまだに続けている会社もあるようだ。
そもそも、建設現場で余った生コンは出荷先の生コン工場に戻る。一般には工場の敷地内に薄く敷き、翌日に硬化したコンクリートを破砕し産業廃棄物として処理する。つまり、残コン・戻りコンは基本的に生コン会社が扱う。
都市部を拠点とする生コン会社には、十分な工場敷地がないことが多い。処分作業に困り、新しく製造する生コンに混ぜる──。このようなパターンが考えられる。
ある生コン会社の社員は「生コン工場にもよるが、毎月の残コン・戻りコンの処理費用は数十万~数百万円にも上る」と現状を嘆く。生コン会社からすると、再利用すれば処理費用がかからず利益を生む材料になる。「内部告発をされたくないので社員に利益を還元する会社もある」(先の生コン会社社長)ようだ。
残コン・戻りコンを廃棄するのではなく、型枠に流し込んでブロックなど二次製品に生まれ変わらせる方法もある。しかし、二次製品化も現状では消極的だ。残コン・戻りコンの1年当たり総発生量は、最低でも200万m3以上と見込まれている。大量に感じるが、実は1回の打設で発生する量は少ない。
岐阜大学工学部社会基盤工学科の國枝稔教授と岐阜県生コンクリート工業組合技術センター(岐阜市)が22年1月に実施した調査によると、1回の打設における残コン・戻りコンの発生量の割合は0.5m3未満が84%、1m3未満だと9割を超えた(資料2)。これは岐阜県だけでなく、全国的にも同じ傾向だといえる。既存設備の更新もままならない生コン会社にとって、少量の残コン・戻りコンを再利用するために、わざわざ新しく設備を投資する余裕はない。