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大手の建設会社を中心に、コンクリートの打設数量を正確に管理する技術の導入が進む。拡張現実(AR)などテクノロジーを駆使して現場の負担を軽くしながら、残コン・戻りコンを減らして環境配慮のアピールにもつなげる──。“一石三鳥”のアプリの普及に期待が集まる。

 残コンや戻りコンの抑制が進まないのは、コンクリート打設時の数量管理の考え方に原因がある。建設会社にとっては、余った生コンクリートの処理費用を支払うよりも、生コンが足りずに打設を中断してコンクリート構造物の品質を低下させるデメリットの方が大きい。そのため、数量に余裕を見て発注するのが常態化しているのだ(資料1)。

資料1■ 生コンの発注数量の精度を高めれば残コンは減る
資料1■ 生コンの発注数量の精度を高めれば残コンは減る
残コン・戻りコンの発生要因。2006年に建設会社と生コン会社に実施したアンケートの結果。有効回答数は建設会社が232社、生コン会社が278社。複数回答(出所:国土交通省)
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 ならば数量管理を徹底すればいいのだが、実現するのは簡単ではない。生コンの発注を管理する現場の技術者は、工事の段取りや書類作業に追われて余裕がない。

 生コンの打設数量は一般に、次の手順で管理する。打設日よりも前に図面から数量を概算してプラントに発注。打設当日は打ち残し範囲(最後に施工する範囲)を定め、それ以外の打設を進める。打設が終わりに近づいた段階で、作業を一旦止めて打ち残し範囲の寸法をメジャーで計測。体積を計算して発注済みの数量と比べ、過不足があればアジテーター車の追加や取り消しを手配する。

 打ち残し範囲は技術者が2人がかりで計測する必要があり、手間が大きい。打設を中断している間、作業員からせかされる。また、現場の立地次第では、打設終了の1時間以上前に数量を確定しなければならない。都市部ではプラントが郊外にしかなく、配送に1時間近くかかる場合があるからだ。

 こうした条件が重なり合うと、打設数量を正確に算出するのは難しくなる。現場での残コン・戻りコンの削減の取り組みは遅々として進まなかった。しかし近年、生産性を高めるデジタル技術の現場導入が進み、打設数量を算出する精度や効率を高めるアプリケーションの開発が盛んになってきた。