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北海道新幹線の札幌延伸工事で、トンネル掘削中の事故が頻発している。2022年11月2日、土かぶり約20mの箇所を泥土圧シールド工法で掘進中に地上で泥土が漏出。山岳トンネルでは出水や陥没といった事故の他、岩塊に掘削を阻まれるトラブルも発生している。

 泥土の漏出事故があったのは、札幌と小樽を結ぶ札樽(さっそん)トンネルの現場だ。施工者は大林組・東亜建設工業・大本組・みらい建設工業・丸彦渡辺建設(札幌市)JV。外径約12mの泥土圧シールド機を使い、札幌工区の延長8446mを掘削している際に発生した(資料1、2)。

資料1■ 札樽トンネルの上部を通る「中の川」の堤防上で漏出した泥土。泥土の大部分は気泡材なので流動性が高い。2022年11月2日午前11時50分ごろ撮影(写真:鉄道建設・運輸施設整備支援機構)
資料1■ 札樽トンネルの上部を通る「中の川」の堤防上で漏出した泥土。泥土の大部分は気泡材なので流動性が高い。2022年11月2日午前11時50分ごろ撮影(写真:鉄道建設・運輸施設整備支援機構)
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資料2■ 延長212kmの延伸工事進む
資料2■ 延長212kmの延伸工事進む
事故があった北海道新幹線3トンネルの位置図(出所:鉄道建設・運輸施設整備支援機構の資料を基に日経クロステックが作成)
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 2022年11月2日午前10時15分ごろ、札幌市手稲区を流れる2級河川「中の川」の堤防上で、札幌市発注の舗装改修工事を手掛けていた施工者が泥土の漏出を見つけた。泥土が堤防上の歩道に広がり、一部は川に流れ落ちていた。漏出の発見後、即座にオイルフェンスで河川内での泥土拡大を防ぎ、回収を進めた(資料3)。

資料3■ 堤防上から川へ流れ落ちた泥土の回収作業の様子(写真:鉄道建設・運輸施設整備支援機構)
資料3■ 堤防上から川へ流れ落ちた泥土の回収作業の様子(写真:鉄道建設・運輸施設整備支援機構)
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 トンネル工事を発注した鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)によると、流れ出た泥土は約4m3と推定される。堤防上の複数の箇所から漏出していた。漏出箇所の土かぶりは約22mだ(資料4)。

資料4■ 泥土漏出箇所の土かぶりは約22m
資料4■ 泥土漏出箇所の土かぶりは約22m
中の川付近の地質縦断図。泥土の漏出が見つかった22年11月2日にシールド機を停止したが、地盤に緩みが生じるのを防ぐため、翌3日に掘進を再開した(出所:鉄道建設・運輸施設整備支援機構の資料を基に日経クロステックが作成)
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 掘削の際には、土砂を泥土化する添加剤としてシェービングクリーム状の「気泡材」を使用。シールド機の前面から地山に注入しながら掘削していた。漏出した泥土は流動性が高く、大部分が気泡材だった。シールド機に取り込む前の気泡材が、土砂と共に地上へ出てきたとみられる。

 泥土が地盤の中を通って20m以上も上昇した理由について、鉄道・運輸機構では「地質の弱い所を経由して地上に漏出したと考えられる」(北海道新幹線建設局広報・渉外課)と説明する。漏出前、切り羽の土圧変化など、事故の予兆とみられる現象は観測されなかった。詳しい原因については今後調査を行い、有識者の意見を聞いていく。

 地盤の亀裂やボーリング孔の跡などの有無については明らかにしていない。この場所特有の原因だったのか、他の場所でも十分に発生し得る事故だったのかも不明だ。

 漏出現場の付近は住宅地で、トンネルは民家の真下も通る。漏出箇所が堤防上だったので大きな被害は出なかったが、もし民家の庭先などで漏出していたら大ごとになっていたはずだ。

 気泡材を使用する泥土圧シールド工法に関しては、東日本高速道路会社などが進めている東京外かく環状道路の大深度地下トンネル工事でもトラブルが起こった。気泡材に含まれていた空気が地上に出てくる「漏気」がたびたび発生。川の底から泡が噴き出て、付近の住民から不安の声が上がった。現場ではその後、気泡材用の溶液を泡立てずに使うなどの対応を迫られた。

 ただ、空気ではなく、気泡材自体が地上に漏出するケースは珍しい。鉄道・運輸機構が手掛けたトンネル工事で、同様の事故が発生した例はない。

 気泡材を地山に注入した状態で放置すると地盤に緩みが生じる恐れがある。そのため、漏出が生じた11月2日にシールド機を止めたものの、翌3日に掘進を再開した。再開後は、気泡材を極力使わないようにして掘削している。