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大阪府守口市で掘削中のシールドトンネルに土砂が流入し、坑内に作業員が2日間閉じ込められた事故。その原因は、目先のトラブルにとらわれ、隠れた不具合に気づかなかったことによる判断ミスだった。発注者の大阪広域水道企業団が2022年9月にまとめた報告書で、事故当時の状況が明らかになった。

 トラブルの発端は、掘削土砂を搬出する「土砂スキップ」と呼ぶ容器からの土砂のあふれだった。トンネル内にいた作業員や地上のマシンオペレーターは、目先のトラブルだけを認識。その原因となっている隠れた不具合には思いが至らなかった。

 土砂のあふれが止まらないので、オペレーターは作業員の退避を決断。退路を塞いでいる土砂スキップを坑外へ搬出するため、接続している排土ホースを切り離すよう指示した。

 しかし、この判断が大きな誤りだった。作業員が排土ホースを外した途端、土砂が一気に噴出。トンネル内に堆積して土砂スキップが動かなくなった(資料1、2)。

資料1■ 事故があったトンネルの発進たて坑。958mほど掘り進んだ箇所に閉じ込められた作業員を、ここから救出した(写真:日経クロステック)
資料1■ 事故があったトンネルの発進たて坑。958mほど掘り進んだ箇所に閉じ込められた作業員を、ここから救出した(写真:日経クロステック)
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資料2■ トンネル内で土砂に埋まった搬出用容器「土砂スキップ」。事故後に後方(坑口側)から撮影(写真:大阪広域水道企業団)
資料2■ トンネル内で土砂に埋まった搬出用容器「土砂スキップ」。事故後に後方(坑口側)から撮影(写真:大阪広域水道企業団)
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 事故は2021年12月16日、守口市にある大庭浄水場と庭窪浄水場を結ぶ延長974mのトンネルの建設現場で起こった。この現場では、大勝建設(大阪市)・中林建設(同)JVが、小口径の泥土圧シールド工法で掘削していた。

 掘削した土砂は、チャンバー内で添加材と混ぜて泥土化し、スクリューコンベヤーで搬送。スクリューゲートから排土ホースを経て、2台の土砂スキップに収容する。土砂スキップにある程度たまったら、バッテリー機関車でトンネルの外へ搬出する(資料3、4、5)。

資料3■ スクリューゲートと土砂スキップの間で閉じ込められた
資料3■ スクリューゲートと土砂スキップの間で閉じ込められた
坑内の断面イメージ(出所:大阪広域水道企業団の資料を基に日経クロステックが作成)
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資料4■ 土砂スキップの周囲に人が通れる隙間なし
資料4■ 土砂スキップの周囲に人が通れる隙間なし
坑内の標準断面図。坑内には土砂スキップの他、加泥管など各種の管が通る(出所:大阪広域水道企業団の資料を基に日経クロステックが作成)
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資料5■ 緑色の容器が土砂スキップで、奥に黄色いバッテリー機関車が見える。手前にセグメントや各種の配管を設置して、事故時のトンネル内を再現している(写真:日経クロステック)
資料5■ 緑色の容器が土砂スキップで、奥に黄色いバッテリー機関車が見える。手前にセグメントや各種の配管を設置して、事故時のトンネル内を再現している(写真:日経クロステック)
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 閉じ込められた作業員は、スクリューゲートと土砂スキップの間で、セグメントの組み立てや排土ホースの接続といった作業を担っていた。

 チャンバーから土砂スキップまで全て密閉されているので、本来ならば坑内で土砂は露出しない。しかし、事故後の実験の結果、土砂スキップに内圧をかけると本体と蓋との間に1mm程度の隙間ができると判明。事故当時は、その隙間から土砂と水が流出したとみられる。ただし、流出量はわずかなので、坑内の土砂堆積の主要因とは考えにくい。