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シルトや腐植土が何層も挟まる

 このような状況下で地盤状況を見直すことになり、チェックボーリングの採取試料を詳細に観察することになった。その結果、矢板の打設深度より浅い部分にシルトや腐植土が何層も挟在(資料7)していて、合計した層厚は2mに上ることが明らかになった。

資料7■ 観察が不十分なために見逃された試料中の粘性土
資料7■ 観察が不十分なために見逃された試料中の粘性土
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 工事前の調査では、これらの地層はN値20程度の砂質土と想定していた地層に当たる。

 そこで矢板引き抜きの際にシルトや腐植土の付着があったため、沈下量がさらに大きくなったとの結論に至った。

 さらに左岸方向に沈下傾動が発生した原因については、矢板の引き抜き順序にあることも判明した。右岸側に仮設盛り土を施工して重機を配置し、左岸側から矢板を引き抜き始めていた。

 施工者は矢板の圧入地盤が均質な砂質土であるとの調査結果に基づいて、矢板引き抜きの際の土砂の付着はないと考えていた。

 しかし実際は粘性土の存在が明らかになり、矢板への土砂の付着によって沈下量が増したことが原因だという究明に至った。この現場での橋脚の変状を未然に防ぐために、現時点で考えられる対応は以下の通りである。

(1)正確な基礎データの取得。ボーリング調査の採取試料の観察について地盤の専門家が詳細な観察を行い、正確な地盤状況を設計技術者に伝える必要がある。

(2)設計技術者に正確な地盤状況が伝われば、矢板の引き抜きに際して土砂の付着のリスクが想定できる。そのため、周辺地盤の沈下が発生しないように矢板引き抜き後の空隙を砂やセメントミルクで充填する工程を採用できたと思われる。

(3)施工状況の管理と記録。施工管理上の問題として矢板の引き抜きに際して土砂が付着しているようであれば、矢板1枚の引き抜きごとに、砂やセメントミルクで空隙を充填し、写真撮影などの記録でその状況を残すべきである。

上野 将司(うえの・しょうじ)
応用地質社友。1947年生まれ、69年北海道大学理学部地質学鉱物学科卒業後、応用地質に入社。2017年退職し現在に至る。15年から岐阜大学客員教授。専門は、災害地質・斜面防災対策。博士(工学)、技術士(応用理学・建設)、1級土木施工管理技士