大規模プロジェクトの進行中に、当初見込んでいなかった費用を上積みして事業費が膨れる例が後を絶たない。こうした「後出し増額」は、公共事業への社会の信頼を損ねるだけでなく、適切なタイミングでの事業見直しの機会を奪う点で、許されない行為だ。後出し増額の実態を分析し、事業費増大リスクへの対処法を探る。

後出し増額の罪
目次
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大型公共事業の計画に疑問符、事業途中の「後出し増額」が相次ぐ
大型公共事業で計画時に見込んでいなかった費用の後出しが相次ぎ、事業への不信感が高まっている。事業者はいずれも事前の想定が難しかったと説明するが、本当に回避は無理だったのか。「後出し増額」を放置せず、将来の公共事業に役立てる方策を探る。
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後出し増額事業の全国マップ、50億円以上の増額が50件超える
国土交通省が2022年度に実施した事業再評価の資料には様々な増額要因が並ぶ。後出し増額には、全国の受発注者が多くの「想定外」に対応した経緯が含まれる。事業費の増額要因の情報は、他の事業関係者にとって参考になりそうだ。
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事業費膨張の要因を解剖、「仕方ない増額」の舞台裏
事業費の後出し増額の多くは、当初の計画で想定できなかった「仕方ない増額」のようにみえる。しかし事情を詳しく知れば、十分な事前調査や協議によって防げたのではないかと思える例もある。頻発する後出し増額の実態を、自然環境や地元協議など要因別に探った。
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横浜湘南道路は地元協議経て200億円増、側道閉鎖案に警察など難色
地元との協議を重ねて計画の具体像が固まった途端に事業費が跳ね上がる──。関係者にとってあらかじめ増額の可能性があることは分かりきっていても、一般の納税者からすれば寝耳に水。その上、安い当初の計画が現実的でないとすれば、事業への不信は高まる一方だ。
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資材高騰が直撃した横浜環状南線、シールド工事途中で構造変更できず
2021年に本格化した資材価格の高騰。事業期間が長い大規模プロジェクトでは事業費への影響が避けられない。東日本高速道路会社と国土交通省が合併施行方式で整備を進める首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の横浜環状南線では、22年度の再評価で鋼材価格の上昇が事業費を約538億円押し上げた。
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設楽ダムは働き方改革で上積み、ノー残業や土曜閉所で工期延びる
プロジェクトの進行中に設計や積算の基準が見直されると、事業費の変更を余儀なくされる。中でも大規模災害を踏まえた基準の変更は典型例だ。
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情報公開の遅れでトラブル、不透明な事業推進に批判相次ぐ
広島高速と北陸新幹線では早い段階で事業費増が不可避と分かっていながら公表しなかった。費用の増大や事業の遅れを巡るトラブルを防ぐには、情報共有と透明性確保が欠かせない組織の上層部や他機関としっかり情報共有していれば、早めに対策を打てる可能性がある。
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大阪市などのリスク管理に学ぶ、増額見込みも含めて事業費算定
大阪市や鉄道・運輸機構は事業費増大への批判を受け、リスク管理体制を見直した。リスクを「見える化」し、問題が顕在化したらいち早く組織の上層部に上げる。事業の透明性を高め、対外的な情報発信にも力を入れる。
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「3本の矢」で先手を打つ、不確実なリスクを前倒しで見える化
人口の減少でインフラの費用対効果が今後さらに見込みにくくなり、「後出し増額」は通用しなくなる。安易な後出しを防ぐため、地質・地盤分野ではリスクマネジメントの考え方の導入が始まっている。事業の様々な不確実性を前倒しで見える化し、増額リスクを賢く管理する必要がある。