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大型公共事業で計画時に見込んでいなかった費用の後出しが相次ぎ、事業への不信感が高まっている。事業者はいずれも事前の想定が難しかったと説明するが、本当に回避は無理だったのか。「後出し増額」を放置せず、将来の公共事業に役立てる方策を探る。

 線路をくぐるトンネルの施工方法を見直したところ、費用の見積もりが当初の32億円から7倍近くに膨れ上がった──。

 2022年10月に国土交通省関東地方整備局が開いた事業評価監視委員会の会合に出席した委員は、提示されたある道路事業の再評価資料に目を奪われた。公共事業には数年に一度、進行中の事業を再評価して、その時点の事業費などを明らかにする制度がある。その再評価の場での出来事だ。

 ある道路事業とは、東京都八王子市内の住宅地で建設中の国道20号八王子南バイパス(資料1)。JR横浜線、京王電鉄京王線と京王高尾線の3線の地下をくぐる区間で工法を変更した。関東地整が1997年度に事業化した際は、開削工法で施工する想定だった。線路をいったん隣地に切り回して開削トンネルを構築した後、その上に線路を再び切り回す手順だ。

資料1■ 線路下のトンネル掘削費用を約7倍に見直し
資料1■ 線路下のトンネル掘削費用を約7倍に見直し
(出所:国土交通省の資料を基に日経クロステックが作成、写真:日経クロステック)
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 しかし、2008年度にJR東日本と京王電鉄との協議を始めた後、関東地整の施工方法では鉄道運行への影響や周辺への振動・騒音の影響が大きいといった問題が次々と判明。鉄道会社2社は「開削工法は認められない」とノーを突きつけた。

 関東地整は非開削工法を提案し、協議開始から13年後の21年度にようやく合意に至った。この経緯に前述の委員は疑問を呈した。「最初から非開削で道路を通そうという協議にはならなかったのか」

 関東地整道路計画第一課は土かぶりが2mと浅い場所があるため、開削工法にも妥当性があったと主張する。協議の段階では着工まで期間があり、着工時に使える具体的な施工技術も明らかではなかったと指摘する。だが前回再評価を実施した19年度時点で既に、鉄道事業者との間で開削工法の課題が表面化していた。何らかの増額が必要なことは分かっていたはずだ。

 そのため、22年の再評価時点でも表面化していない別の増額要素が隠れている疑念が拭えない。