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事業費の後出し増額の多くは、当初の計画で想定できなかった「仕方ない増額」のようにみえる。しかし事情を詳しく知れば、十分な事前調査や協議によって防げたのではないかと思える例もある。頻発する後出し増額の実態を、自然環境や地元協議など要因別に探った。

新東名などで想定外の自然環境、地質・地盤トラブルで工期延長

 事業費増大の原因で最も多いのが、設計時の想定と実際の施工現場との違いだ。特に想定外の地質や地盤に起因する施工トラブルで、工費増大や工程遅延が起こるケースが後を絶たない。

 例えば、新東名高速道路の唯一の未開通区間である新御殿場インターチェンジ(IC)─新秦野IC間(延長約25km)では、地質や地盤を巡るトラブルがたびたび発生している。事業を進める中日本高速道路会社は、当初20年度としていた開通予定を23年度に延期。さらにトラブルが続いたことから開通予定をいったん白紙に戻し、その後、27年度とした。

 最初の開通延期の主な要因となったのが、神奈川県松田町に建設しているエクストラドーズド橋の中津川橋だ。着工後の調査で、主塔の下に脆弱な断層破砕帯が広がっていると判明。それを避けるために、川の左岸側に計画していた主塔を右岸側に変更する必要が生じた。構造形式の大幅な見直しなどで、事業費が300億円増大した。

 2回目に延期した要因の1つは、中津川橋に隣接する高松トンネルだ。NATM工法で掘削中に脆弱な地盤が出現し、トンネル内に土砂が流入した(資料1)。この事故を受け、長尺鋼管フォアパイリングやインバートストラットといった対策を追加(資料2)。事業費が245億円増えた。

資料1■ 新東名高速道路の高松トンネルの建設現場で発生した土砂崩落。土砂が上部や側面から流入している(写真:中日本高速道路会社)
資料1■ 新東名高速道路の高松トンネルの建設現場で発生した土砂崩落。土砂が上部や側面から流入している(写真:中日本高速道路会社)
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資料2■ 高松トンネルで追加した対策工法。長尺鋼管フォアパイリングやインバートストラットを施工した(写真:中日本高速道路会社)
資料2■ 高松トンネルで追加した対策工法。長尺鋼管フォアパイリングやインバートストラットを施工した(写真:中日本高速道路会社)
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 現場の地質が想定外だったのかどうかでもめるケースもある。シールド工法で掘削している広島高速5号の二葉山トンネルでは、岩盤が硬くてカッターが破損するなどマシントラブルが相次いだ。

 現在も、地表面の変位が管理値を超えたため掘削を止めている(資料3)。いつ完成するのか、全く見通しが立たない状態だ。

資料3■ 広島高速5号の建設現場。地表面の変位が管理値を超えたためシールドトンネルの掘削を止めている。再開のめどは立っていない(写真:日経クロステック)
資料3■ 広島高速5号の建設現場。地表面の変位が管理値を超えたためシールドトンネルの掘削を止めている。再開のめどは立っていない(写真:日経クロステック)
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 地質がある程度想定の範囲内なら、施工トラブルは施工者側の問題といえる。事業者の広島高速道路公社と施工者との間で、増額分の費用負担について調停中だ。そのため公社は、地質が想定外の硬さだったのかについて「答えられない」(建設課)としている。

 施工者との契約金額は現在の約300億円から大幅に増える見込みだが、具体的な金額は明らかになっていない。