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 地元との協議を重ねて計画の具体像が固まった途端に事業費が跳ね上がる──。関係者にとってあらかじめ増額の可能性があることは分かりきっていても、一般の納税者からすれば寝耳に水。その上、安い当初の計画が現実的でないとすれば、事業への不信は高まる一方だ。

 新湘南バイパスの藤沢インターチェンジ(IC)と栄ジャンクション(JCT)を結ぶ延長7.5kmの横浜湘南道路は2022年度の再評価で、事業費が約1100億円(24%)増えた。このうち、地元協議を踏まえた計画の見直しに伴う増額は約200億円を占める。

 中でも約80億円を占めたのが、神奈川県藤沢市内で4車線道路が地下トンネルから高架へ切り替わる区間だ(資料1)。そのうち国道1号の真下にトンネルを造る箇所では、国道の本線を外側に移して開削する方針だった。この場所で施工手順の見直しや周辺の住宅地に対する騒音対策が発生し、コストが膨らんだ。

資料1■ 横浜湘南道路の完成イメージ。西側の終点である藤沢インターチェンジの手前でトンネル部から地上に出る部分を東側から見た様子(出所:国土交通省)
資料1■ 横浜湘南道路の完成イメージ。西側の終点である藤沢インターチェンジの手前でトンネル部から地上に出る部分を東側から見た様子(出所:国土交通省)
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 事業者の国土交通省関東地方整備局と東日本高速道路会社は当初、国道1号の本線4車線の両側にある側道を閉鎖して、そこへ上下2車線をそれぞれ切り回す計画を立てていた。

 だが16年度に住民へ計画を提示したところ、「通学路に使う側道が使えなくなるのは交通安全上困る」との声が上がった。

 地元警察も難色を示した。側道は住宅地の狭い道路と国道1号をつなぐ。側道のある場所に国道1号を移せば、住宅地の道路が複数の箇所で国道1号と接続する。車が側道を介さず直接、国道1号との出入りができるようになり、渋滞が悪化する上に事故の危険性も高まる。住宅地の道路との接続箇所を塞ぐ案も検討したが、住宅地から国道1号に出ていた車が住宅地内の道路を通って迂回するようになる点も見過ごせなかった(資料2)。

資料2■ 国道1号周辺を長期間閉鎖する計画に地元が難色
資料2■ 国道1号周辺を長期間閉鎖する計画に地元が難色
国道1号の移設位置はイメージ(出所:国土交通省の資料を基に日経クロステックが作成)
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 そこで側道の閉鎖期間を短縮するために、国道1号を複数回切り回して路面に覆工板を施工し、地下に施工スペースを確保する案を提示。22年度にようやく警察との協議が決着した。上下2車線を維持しながら覆工板を全面に敷設していくため、覆工板の撤去も含めて7段階の切り回しが発生する(資料3)。

資料3■ 切り回しと路面覆工を実施して側道をなるべく確保
資料3■ 切り回しと路面覆工を実施して側道をなるべく確保
切り回しのイメージ(出所:国土交通省の資料と取材を基に日経クロステックが作成)
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