盛り土規制法による技術基準の見直しで、新設する盛り土の排水性は向上するはずだ。しかし、地下水がたまっている可能性のある既存盛り土への効果的な対策は示されていない。過剰間隙水圧に伴う滑り面の液状化で崩れる恐れのある盛り土は全国に存在する。
危険な盛り土の解消に向け、2023年5月26日に「宅地造成及び特定盛土等規制法」(盛り土規制法)が施行される。21年7月の静岡県熱海市で起こった土石流災害をきっかけに生まれた新法だ(資料1)。そのため、豪雨時に崩れやすい盛り土などを規制し、安全性を確保するものと捉えがちだ。しかし、地震時の安全性向上にも寄与する。
実はこれまで大きな地震が起こるたびに、宅地の盛り土が崩れてきた。地盤問題に詳しい地盤リスク研究所(兵庫県西宮市)の太田英将相談役は「完全に排水できていない盛り土は、地震による過剰間隙水圧の発生で、滑り面が液状化して崩れるリスクが高い」と警鐘を鳴らす(資料2)。

過去に地震で変動した盛り土造成地のなかに、象徴的な事例がある。1978年の宮城県沖地震で被災した宮城県白石市緑が丘1丁目の傾斜地だ。当時、造成中だった盛り土全体が大きく崩れた。
その後、公園に用途変更され、地滑り対策として集水井2基などを法尻に施工した。
しかし、2011年の東日本大震災で再び崩れた。前回と異なるのは、斜面の上部と下部で変動の有無が分かれた点だ。集水井につながる集水ボーリング管が届く斜面の下部だけが変動しなかった(資料3、4)。
「集水ボーリング管には、管が到達していない範囲の地下水も排出する効果があるが、それでも斜面上部は変動した。地下水が少しでも残っていると、過剰間隙水圧が発生するからだ。斜面下部にも水がたまっていたものの、管がより近い位置にあったので水圧を低減できたのだろう」(太田相談役)