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テスラ モデル3の外観(撮影:日経クロステック)
テスラ モデル3の外観(撮影:日経クロステック)
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 米テスラ(Tesla)の電気自動車(EV)「モデル3」に、リチウム(Li)イオン2次電池パックの安全性の向上を図る目的で「パイロヒューズ」と呼ぶ新しい方式の高電圧電流遮断器が搭載されていることが、日経BPの分解調査から判明した(図1)。

図1 テスラ モデル3に搭載された「パイロヒューズ」
図1 テスラ モデル3に搭載された「パイロヒューズ」
底面にエアバッグと同様にイニシエーター用の点火電極がある。(分解調査を基に日経クロステックが作成)
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 パイロヒューズは、“火、熱、高温”を表す英語の接頭辞“Pyro”に、ヒューズ(fuse)を付けた造語である。その名の通り、火薬に着火し、瞬時に高温にして爆裂力を発生させることで導電経路を断裂させる。エアバッグの電力遮断装置版といえる。「少なくとも日本メーカーのクルマで搭載されているのは見たことがない」(ある電子部品メーカー)というほど、自動車では珍しい機構だ。

 HEVやPHEVなどのハイブリッド車を含む日本の電動車両の高電圧系の保護には「溶断型のヒューズのみが使用されている」(前出のメーカー)。これはショートなどにより異常な電流が流れた場合に、ヒューズの線で大きな熱が発生して溶ける仕組みである。

 一方、パイロヒューズは、緊急の信号によって電力を遮断できる。衝突を検知した場合に、エアバッグと同時に駆動する。テスラは、事故によって高電圧回路のショートが起きて火災になるのを防いだり、乗員や救助者が感電したりするのを防止するために用意したとみられる。

 モデル3にパイロヒューズが搭載されていたのは、電池パックと一体構造になったペントハウスと呼ばれる部分である(図2)。ここには、電池パックからの直流350Vを車内電装品の12V直流に変換する降圧DC-DCコンバーター、車載充電器、高電圧用DC-DCジャンクション、高電圧システムを制御する高電圧コントローラーの機能を集約している。

図2 テスラ モデル3のペントハウス
図2 テスラ モデル3のペントハウス
電池パックの上部に設置されている。(撮影:日経クロステック)
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 パイロヒューズは、電池パックからの電力を各部に分ける高電圧用のDC-DCジャンクション部に搭載されていた(図3)。この部分には、大型の溶断型ヒューズも搭載されており、異常電流が発生した場合は溶断型ヒューズで保護するとみられる。

図3 テスラ モデル3に採用されたパイロヒューズの搭載位置
図3 テスラ モデル3に採用されたパイロヒューズの搭載位置
ペントハウス内のDC-DCジャンクション部に設置されており、近くに溶断型ヒューズが3個搭載されている。(撮影:日経クロステック)
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