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ユーザーの周囲に音を閉じ込めているイメージ(画像:PIXTAの写真に日経クロステックが加工)
ユーザーの周囲に音を閉じ込めているイメージ(画像:PIXTAの写真に日経クロステックが加工)
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 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、オンライン会議が増えた。自宅のリビングやオフィス、喫茶店など、どこでもミーティングに参加できる一方で、問題になるのが声だ。密閉された会議室とは異なり、どうしても周囲に声が聞こえてしまう。そこであると便利なのが、開放空間で自分の声を周囲に聞こえなくする技術である。最近のヘッドホンに搭載されている周囲の音を消すアクティブノイズキャンセリング(ANC)を、空間に適用するイメージだ。その実現性について、ANCを研究する、関西大学システム理工学部電気電子情報工学科教授の梶川 嘉延氏に聞いた。(聞き手=土屋 丈太)

オンライン会議中の自分の声を消音したいというニーズが高まっています。自分の声を、ある領域から出ないようにすることはできますか?

梶川氏 原理的には可能ですが、実現は極めて困難です。ノイズを打ち消すには、消音したい領域をマイクロホンとスピーカーで立体的に取り囲む必要があるからです。人の声を打ち消す場合だと、人の周辺という広い空間を包み込むように大量のマイクロホンとスピーカーを設置しなくてはなりません。信号処理の計算量も膨大になります。コストや利便性を考えれば、実用化は遠いといえます。

 そこでいま研究が進んでいるのは、周囲の人の耳元という比較的狭い領域だけを制御する手法です。

耳元の音をどうやって制御するのですか?

梶川氏 ANCの応用技術で実現します。ANCではまず、消音したい領域でどのような音が鳴っているのかを検出します。そして、騒音に対して同振幅・逆位相の音をスピーカーから出します。すると2つの信号が消音領域で干渉し合い、重ね合わせの原理で消音されます。これがANCの基本原理です。(図1

図1 耳元の騒音を同振幅・逆位相の音によって打ち消す
図1 耳元の騒音を同振幅・逆位相の音によって打ち消す
事前学習で誤差マイクロホン地点と耳元との間の伝達関数や、それぞれのマイクロホン地点の経路特性を同定する。実運用では、事前学習で同定したデータを用いて、2台のマイクロホンの信号から耳元の騒音を推定し、最大の消音効果を生む制御を行う。(図:日経クロステック)
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 耳元の騒音制御で重要なのは、センシング技術と、消音用スピーカーです。これらを低コストに実現できれば、耳元の消音システムの普及が進むと思われます。

 ただ、耳の近くに常にセンシング用のマイクロホンを置くのは現実的ではありません。そこで、耳に何も取り付けずに、遠隔から、ある領域に届いている音を推定する「バーチャルセンシング(VS)」の研究が進んでいます。